頭蓋骨の真ん中でひとり
男は次の演奏のため
すべての扉を閉ざした
観客席に人影はなく
非常口の表示灯も消えて
ただ一本のスポットだけが下りている
真後ろに伸びる影に
ギターの影がクロスする
耳に降っていた激しい雨は
深い記憶の椅子におさまった
鐘が遠く
秩序の地へ導いている
男の掌は過去をつつみ
忘れかけた愛へとのばされる
*
−−懺悔の魂が告白をはじめた
カタコンベに隠した筈の柔らかさが
鉄格子の中でまばたきもせず
閉ざされた出口のひかりを探す
壁に映る木々に白い蝶がふわり
葉に伏せる蛙は緑にまぎれている
雫が光をつつんで落ちる
張りだした瞳へ
蛙は一歩前へすすみ枝は揺れている
赤い鳥が舞い降りる
白い蝶は青にゆらり
緑は艶かしく光りまっすぐ白へ
赤と緑がすれ違う
鳥は空を切る
蝶は蛙と水たまりへ
蛙の瞳は黒くなる雲に向いている
蝶の舞いは永遠に失われてしまった
雨が冷たく地を叩く
集まった水は濁流になり
全てを洗い流していった
*
雨は降り尽くした
厚い雲のきれ間から
誰のためでもない光がもれる
鳥は高く囀ずりはじめた
葉にしがみついていた空は
手を離して風に抱かれ
地に弾かれて土と交わる
空を光が満たしたころ
赤い鳥が飛びたつ
木々は再び葉をのばし
深呼吸をしている
*
黒い鳥は紅い空へもどる
月は冷ややかに微笑み
虫の音は小刻みに笑う
空の幕はさらに黒く被さり
壁の景色は見えなくなる
鉄格子に囲まれた死体にまぎれ
再び柔らかさを閉じ込めた
辺りは静まりかえっている
男はギターを抱えたまま止まっている
耳には雨の一滴も降らない
影は後ろに長く
長く伸びている
スポットは淡く
そして
消える
−
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