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2014年06月10日18:09

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詩『体−耳〜終曲』



頭蓋骨の真ん中でひとり
男は次の演奏のため
すべての扉を閉ざした

観客席に人影はなく
非常口の表示灯も消えて
ただ一本のスポットだけが下りている


真後ろに伸びる影に
ギターの影がクロスする
耳に降っていた激しい雨は
深い記憶の椅子におさまった


鐘が遠く
秩序の地へ導いている


男の掌は過去をつつみ
忘れかけた愛へとのばされる


       *

−−懺悔の魂が告白をはじめた

  カタコンベに隠した筈の柔らかさが
  鉄格子の中でまばたきもせず
  閉ざされた出口のひかりを探す

  壁に映る木々に白い蝶がふわり 
  葉に伏せる蛙は緑にまぎれている 

  雫が光をつつんで落ちる
  張りだした瞳へ
  蛙は一歩前へすすみ枝は揺れている

  赤い鳥が舞い降りる
  白い蝶は青にゆらり
  緑は艶かしく光りまっすぐ白へ
  赤と緑がすれ違う

  鳥は空を切る
  蝶は蛙と水たまりへ
  蛙の瞳は黒くなる雲に向いている
  蝶の舞いは永遠に失われてしまった
  
  雨が冷たく地を叩く
  集まった水は濁流になり
  全てを洗い流していった

       *   

  雨は降り尽くした
  厚い雲のきれ間から
  誰のためでもない光がもれる
  鳥は高く囀ずりはじめた

  葉にしがみついていた空は
  手を離して風に抱かれ
  地に弾かれて土と交わる

  空を光が満たしたころ
  赤い鳥が飛びたつ
  木々は再び葉をのばし
  深呼吸をしている

       *

  黒い鳥は紅い空へもどる
  月は冷ややかに微笑み
  虫の音は小刻みに笑う
  空の幕はさらに黒く被さり
  壁の景色は見えなくなる  
  
  鉄格子に囲まれた死体にまぎれ
  再び柔らかさを閉じ込めた



辺りは静まりかえっている
男はギターを抱えたまま止まっている
耳には雨の一滴も降らない

影は後ろに長く
長く伸びている

スポットは淡く
そして
消える






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