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2023年09月11日23:40
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「ブルターニュの光と風」展 / 静岡市美術館��
9/9(土)、静岡市へ車で移動、静岡市美術館で開催中の「ブルターニュの光と風」展を観る。
当日は美術評論家で広島県立美術館館長でもある千足伸行の記念講演があり、事前申し込みをしたところ当選したので、聴講もできた。
今年はフランス・ブルターニュの当たり年か、5/31には国立西洋美術館の「憧憬の地ブルターニュ」展を観る事ができた。
以下レポート参照。
https:/
先ずは、両展の違いを明らかにしておく必要があるだろう。
国立西洋美術館の展示品は、約160点の殆どが同館を中心とする国内30カ所の美術館コレクションを集めたものだったが、本展は約70点の殆どがカンペール美術館から借用した作品になっている。
カンペール美術館は、ブルターニュ半島最西端のフィニステール県(*1)にあるカンペール市内に立地する。
開館は1872年。ルネサンスからロココの名品の他、ブルターニュにまつわる作品群においてはフランス随一の充実度である。展覧会のテーマからして、これ程相応しい美術館はないだろう。
(*1)フィニステールは”Finis-tere”と書く。則ち”Finish of Tera”(地の果て)。ブルターニュ半島の最西端はフランス人にとって地の果てのイメージなのだろう。
・会期 9/5〜10/22
静岡の前にSOMPO美術館、福島県立美術館で展覧会が行われ、来春には豊橋市美術博物館に巡回する計画になっている。
本展の構成は以下の通り。
第1章「ブルターニュの風景〜豊饒な海と大地」
第2章「ブルターニュに集う画家たち〜印象派からナビ派へ」
第3章「新たな眼差し〜多様な表現の探求」
◆第1章「ブルターニュの風景〜豊饒な海と大地」
ブルターニュが有する豊かな自然。深い入り江と切り立つ断崖の海岸線、広大な草地と深い森の内陸部。そして、新石器時代の巨石文化や中世初期にブリテン島からもたらされた(*2)ケルト文化が残る。人々はブルトン語を話し、敬虔な信仰心を持つ。
(*2)ブルターニュは英語では”Brittany”と表記される。
ブルターニュは18世紀迄近代化とは無縁の土地で、フランスの中の「異郷」であった。
19世紀前半、ブルターニュを「発見」したのは、ロマン主義文学の作家達だった。彼等による旅行記、小説、民間伝承等は、多くの画家達の関心を掻きたてた。
1830年代以降、異国情緒と郷愁に誘われた画家達が半島を訪れ、特異な自然と、共生する人々の姿を描いた。それらいわゆるブルターニュ主題はパリのサロンでもブームを起こした。その背景には、産業革命後の鉄道網の発達があった。
第1章では官展(サロン)で受賞した作品を中心に、ブルターニュ関連美術の進展を見ていく。
当時の官展で受賞するための必須条件は、アカデミズム手法と大型サイズである。
「海洋画家」とも称されるテオドール･ギュルダン(1802-80)の《ベル=イル沿岸の暴風雨》(1851/131.5×202.5cm)。
人為の及ばない大自然の猛威、如何にもロマン主義的な視点である。
以下部分アップ。
大いなる自然に対比すべく、小さな海鳥の姿が描き込まれている。卑小な人間の象徴でもあるだろう。
ベル=イル島には1886年にクロード･モネも訪れた。
西洋美術館の前掲展に展示されていた《嵐のベリール》(前掲のリンクに写真画像あり)。習慣的に「ベリール」と呼んできたのは、この「ベル=イル」の事である。
同じベル=イルの景観を描いても、ギュルダンとモネの違いはあまりに大きい。
アルフレッド･ギュ(1844-1926)の《さらば！》(1892/170×245cm)。
自然は、ある日は美しくとも、ある日は海に生きる人達に悲劇をもたらすものである。
部分アップ。
嵐に遭遇して難破した一艘の小船。波と格闘しながら父親が抱きあげているのは息子である。しかし、息子の腕には既に力がなく、波に漂うのみ。
父親はその息子に最後の接吻をし、別れを告げる。海は墓でもある。じきに息子はそこに引きずり込まれてしまうだろう。
ギュはブルターニュ半島の南岸にあるコンカルノーに生れ、水先案内や養殖を生業とした父を手伝いながら、同地を訪れる画家に学び、その後パリに出た。のち、再びコンカルノーに戻り、海を生業とする人達の日常を描き続けた。
同じギュの《コンカルノーの鰯加工場で働く娘たち》(1896/151×221cm)。
画像は冒頭に貼付した本展チラシ参。
前作の救いのない過酷さに比し、何と明るい愉悦に満ちている事か。
ブルターニュの民族衣装の一つ白いコワフを被った6人の若い女性は、笑いながら腕を組みあって軽やかに桟橋を歩いてくる。使い古し汚れたエプロンからして、仕事の帰り道か。
そこへ2人組の若い漁師のうち一人が、持っていかないかと、今日穫れたイワシをいっぱいに入れた籠を差し出し、気を引こうとしている。
部分アップ。
光るイワシの肌、漁師の日に焼けたごつい手と女性の手の対比。
彼女等の履物には木靴と革靴とがあり、ブルターニュにも訪れつつある時代の変化をサジェストしている。
同時代に作られた歌劇《カルメン》(1875)の冒頭、昼休みにタバコ工場から広場に出てきた女工達の賑やかなシーンを思いだす。舞台は1820年頃のセビリヤとなってはいるが。
本展ではこの大作3点のみ撮影可となっていた。
(続く)
当日は美術評論家で広島県立美術館館長でもある千足伸行の記念講演があり、事前申し込みをしたところ当選したので、聴講もできた。
今年はフランス・ブルターニュの当たり年か、5/31には国立西洋美術館の「憧憬の地ブルターニュ」展を観る事ができた。
以下レポート参照。
https:/
先ずは、両展の違いを明らかにしておく必要があるだろう。
国立西洋美術館の展示品は、約160点の殆どが同館を中心とする国内30カ所の美術館コレクションを集めたものだったが、本展は約70点の殆どがカンペール美術館から借用した作品になっている。
カンペール美術館は、ブルターニュ半島最西端のフィニステール県(*1)にあるカンペール市内に立地する。
開館は1872年。ルネサンスからロココの名品の他、ブルターニュにまつわる作品群においてはフランス随一の充実度である。展覧会のテーマからして、これ程相応しい美術館はないだろう。
(*1)フィニステールは”Finis-tere”と書く。則ち”Finish of Tera”(地の果て)。ブルターニュ半島の最西端はフランス人にとって地の果てのイメージなのだろう。
・会期 9/5〜10/22
静岡の前にSOMPO美術館、福島県立美術館で展覧会が行われ、来春には豊橋市美術博物館に巡回する計画になっている。
本展の構成は以下の通り。
第1章「ブルターニュの風景〜豊饒な海と大地」
第2章「ブルターニュに集う画家たち〜印象派からナビ派へ」
第3章「新たな眼差し〜多様な表現の探求」
◆第1章「ブルターニュの風景〜豊饒な海と大地」
ブルターニュが有する豊かな自然。深い入り江と切り立つ断崖の海岸線、広大な草地と深い森の内陸部。そして、新石器時代の巨石文化や中世初期にブリテン島からもたらされた(*2)ケルト文化が残る。人々はブルトン語を話し、敬虔な信仰心を持つ。
(*2)ブルターニュは英語では”Brittany”と表記される。
ブルターニュは18世紀迄近代化とは無縁の土地で、フランスの中の「異郷」であった。
19世紀前半、ブルターニュを「発見」したのは、ロマン主義文学の作家達だった。彼等による旅行記、小説、民間伝承等は、多くの画家達の関心を掻きたてた。
1830年代以降、異国情緒と郷愁に誘われた画家達が半島を訪れ、特異な自然と、共生する人々の姿を描いた。それらいわゆるブルターニュ主題はパリのサロンでもブームを起こした。その背景には、産業革命後の鉄道網の発達があった。
第1章では官展(サロン)で受賞した作品を中心に、ブルターニュ関連美術の進展を見ていく。
当時の官展で受賞するための必須条件は、アカデミズム手法と大型サイズである。
「海洋画家」とも称されるテオドール･ギュルダン(1802-80)の《ベル=イル沿岸の暴風雨》(1851/131.5×202.5cm)。
人為の及ばない大自然の猛威、如何にもロマン主義的な視点である。
以下部分アップ。
大いなる自然に対比すべく、小さな海鳥の姿が描き込まれている。卑小な人間の象徴でもあるだろう。
ベル=イル島には1886年にクロード･モネも訪れた。
西洋美術館の前掲展に展示されていた《嵐のベリール》(前掲のリンクに写真画像あり)。習慣的に「ベリール」と呼んできたのは、この「ベル=イル」の事である。
同じベル=イルの景観を描いても、ギュルダンとモネの違いはあまりに大きい。
アルフレッド･ギュ(1844-1926)の《さらば！》(1892/170×245cm)。
自然は、ある日は美しくとも、ある日は海に生きる人達に悲劇をもたらすものである。
部分アップ。
嵐に遭遇して難破した一艘の小船。波と格闘しながら父親が抱きあげているのは息子である。しかし、息子の腕には既に力がなく、波に漂うのみ。
父親はその息子に最後の接吻をし、別れを告げる。海は墓でもある。じきに息子はそこに引きずり込まれてしまうだろう。
ギュはブルターニュ半島の南岸にあるコンカルノーに生れ、水先案内や養殖を生業とした父を手伝いながら、同地を訪れる画家に学び、その後パリに出た。のち、再びコンカルノーに戻り、海を生業とする人達の日常を描き続けた。
同じギュの《コンカルノーの鰯加工場で働く娘たち》(1896/151×221cm)。
画像は冒頭に貼付した本展チラシ参。
前作の救いのない過酷さに比し、何と明るい愉悦に満ちている事か。
ブルターニュの民族衣装の一つ白いコワフを被った6人の若い女性は、笑いながら腕を組みあって軽やかに桟橋を歩いてくる。使い古し汚れたエプロンからして、仕事の帰り道か。
そこへ2人組の若い漁師のうち一人が、持っていかないかと、今日穫れたイワシをいっぱいに入れた籠を差し出し、気を引こうとしている。
部分アップ。
光るイワシの肌、漁師の日に焼けたごつい手と女性の手の対比。
彼女等の履物には木靴と革靴とがあり、ブルターニュにも訪れつつある時代の変化をサジェストしている。
同時代に作られた歌劇《カルメン》(1875)の冒頭、昼休みにタバコ工場から広場に出てきた女工達の賑やかなシーンを思いだす。舞台は1820年頃のセビリヤとなってはいるが。
本展ではこの大作3点のみ撮影可となっていた。
(続く)
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