続いて、国立西洋美術館で開催されているベルリン国立美術館展へ。
こちらは早々と前売り券を購入していたが、会場前では列を作る事もなく、中に入る事ができた。
「ベルリン国立美術館」と言っても、実は単独の美術館でなく、18館からなる「ベルリンの国立美術館・博物館群」の総称のようで、今回も絵画館,彫刻コレクション館,素描版画館から作品が来ている。
作品点数は、各館から以下の通りである。
・絵画館から 33点
・彫刻コレクション館から 45点
・素描館から 29点
合計107点、それ以外からの6点を加えて、総計は113点となった。
この展覧会には「学べるヨーロッパ美術の400年」という副題が付けられている。これは、この展覧会がカバーする時代を指し示していて、作品リストには「from Renaissance to Rococo」という表記も添えられている。
それを更に詳しく見る為には、展覧会の構成に目を向けてみれば良い。
◆�吃堯ヽ┣�/彫刻
第1章 15世紀：宗教と日常生活
第2章 15-16世紀：魅惑の肖像画
第3章 16世紀：マニエリスムの身体
第4章 17世紀：絵画の黄金時代
第5章 18世紀：啓蒙の近代へ
◆�局堯〜派�
第6章 魅惑のイタリア・ルネサンス素描
主催者の当展の狙いを表した文章の中には、「イタリア絵画や彫刻と、北方絵画や彫刻を同時に見る事により、歴史とともに成熟したヨーロッパ美術の流れを肌で感じ取ることができるような構成にしています」とある。
つまり、時代としてだけでなく、エリアとしても、イタリアと北方、つまり独・仏・オランダ・フランドル辺り迄(1部スペインも)、ヨーロッパを広く対比しつつ把握して欲しいという意思を持っている。
更に重複して言えば、絵画だけでなく、素描,彫刻も含め、芸術の手段としての拡がりも持たせようとしている。
これら、3方向への拡がりを併せ観る事ができる、そんなコレクションをベルリン国立美術館から選定して持ってきた展覧会だと言えるだろう。
以上の意味からして、この展覧会はなかなか骨太で広壮な企画である。
東京都美術館の企画と西洋美術館のそれは、「フェルメールとその他」という観方をしてしまうと、似ているようだが、実際はかなり違う。後者の企画にあっては、ヨーロッパ美術史400年の中にフェルメールの1枚がある、という構造で考えた方がいい。(*)
都美術館の方は、フェルメールと17世紀のオランダ・フランドル絵画、という最近よくあるパターンで、時代と場所を狭く絞り込んでいる。点数も僅か48点。
対して、西洋美術館はヨーロッパをかなり広く捉え、時代の巾も4世紀、点数も倍以上の113点である。そして、その印象を更に強くさせるのが、特に彫刻作品を多く持ってきているというところにある。
今回の場合、企画力は、西洋美術館の方が大分秀でている。
(*)今更書く迄もないが、東京都美術館のフェルメールが『真珠の耳飾りの少女』、西洋
美術館の方が『真珠の首飾りの少女』である。
たまたまかどうかは判らないが、タイトル迄よく似た作品が上野の隣接する美術館に
集まったものだ。
そんな訳もあって、私は、このベルリン国立美術館展では、殊に彫刻作品を興味深く観た次第である。
第1章と2章は、時代区分としてはルネサンスで括られる。
前期ルネサンスから、ルーカ・デッラ・ロッビア(1400-81)の『聖母子』(1450頃)とドナテッロ派の『聖母子とふたりのケルビム』(1460頃)。
ロッビアはフィレンツェの彫刻家で、大理石やブロンズ彫刻でも知られるが、テラコッタ材でも優れた作品を残している。
彼の最も有名な作品は、今回は来ていないが、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の為のレリーフ『カントリア(歌う見物人)』(1431-38)で、活き活きと少年達の歌い踊る姿に感動を覚えない人はいないだろう。
今展の『聖母子』はテラコッタに釉薬を施したもの。
マリアも幼子イエスも、中世の堅苦しく類型的な姿と違い、市井に暮す血の通った肉体を持つ親子のように見える。 …写真1
後者は、前期ルネサンス最大の彫刻家ドナテッロ(1386-1466/フィレンツェ)の跡を継ぐ者の手によるレリーフ。こちらは大理石。
マリアの服装や髪形は古代ギリシア風で、ルネサンスが理想とした世界との共通性を見る事ができる。
マリアの表情には、悲劇的な厳しさが内含されており、我が子の将来に起る出来事に対する心理の先取りがある。そして、幼子を胸に抱く右手は実体より大きく、その愛の深甚を観る者は感じ取るに違いない。ドナテッロの到達点との近親性がここにある。
「ケルビム」は「智天使」と言われ、天使階級の第2位。ここでは根源的な意味でなく、「プット」として扱われていると考えればいいだろう。 …写真2
同じ聖母像、同じフィレンツェ作家でも、大きな違いが両像の間にあり、宗教にがんじがらめにならないルネサンスの特性を物語っている。
第4章はバロック、第5章はロココ、と大雑把には見れば良い。
もう1つ採り上げたい彫刻は、第5章からジョゼフ・シナールの『ジュリエット・レカミエ夫人の胸像』(1802-03頃/テラコッタ)である。
『レカミエ夫人』というと、新古典主義のジャック=ルイ・ダヴィッドによる、ベッドから半身を起こした肖像画が最も知られている。(但し未完)
シナールについては名前からフランス人だと想像される以外、世没年含め詳しい事は判らない。が、ダヴィッド作が1800年だから、シナールはそれを見ているのだろう。柔らかな丸みを帯びた表情はよく似ている。盛り上げた髪をスカーフで巻くスタイルは当時流行したもので、これもダヴィッドと同じである。
但し、シナールの方は、聡明さや知的な側面よりも、美の女神としての傾向をより強く表出した出来上がりとなっている。
ちなみに、実際のレカミエ夫人は、1777年生まれで1849年没だから、この作品が作られた当時、25〜26歳だった計算だ。 …写真3
フェルメールの作品『‥首飾り‥』については何も触れなかったが、多くの人やマスコミが書いているから、まあ良しとさせて頂く。
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