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2010年02月28日05:46

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Fulfillingness' First Finale/Stevie Wonder

インナーヴィジョンズ』リリース直後のできごと。
従兄弟の運転する車に同乗していたスティーヴィーは、交通事故に遭って瀕死の重傷を負ってしまう。奇跡的に一命は取り留めるものの、事故の後遺症によって、彼は味覚と嗅覚を失ってしまうこととなる。

ところがこの盲目の騎士は、そんな悲運にも一切めげず、むしろ「聴覚を残してくれた神に感謝」と発言。早々と音楽活動を再開させる。驚異的な創作力によって、わずか1年でこの『ファースト・フィナーレ』を完成させてしまう。本作は当然のように絶賛をもってシーンに迎え入れられ、見事にグラミー最優秀アルバム賞を受賞。

出来すぎなくらい、素晴らしい復活劇だ。
もしやっかみを言うような奴がいたとしたら、僕はそいつの人間性を疑わずにいられない。どんだけひねくれてるのかって。ただ逆に言えば、仮に『ファースト・フィナーレ』がつまらない作品だったとしても、当時の評論家は酷評しづらい雰囲気だったんだろう、っていう。

なんて、ついついイジワルなことを言ってしまった。
というのも、個人的にはどことなく地味な印象が残るアルバムであり、手放しで絶賛するまではいかない、というのが正直なところ。
まず、ここでのスティーヴィーは、前二作に比べて驚くほど新しいことに手を出してない。
お馴染みのクラビネットを使ったファンク“悪夢”は、まるで“迷信”のセルフ・パロディーみたいだし、当時流行ってたレゲエを取り入れたとされる“レゲ・ウーマン”だって、ホンキートンクなピアノ・ラインこそ新鮮だが、まったくレゲエには聴こえない。いずれも、どこかデジャヴを感じさせるナンバーが続いていく。(そういえば、ベストにも本作の曲は一切収録されてなかった)

もっとも、スティーヴィーの心境を思えば、保守化というより、あえて足元を見つめ直す時期だったと捉えるのが適当かもしれない。アルバム・タイトルにもあるように、彼は本作を「三部作の最終章」と位置付けてるようだし、このへんで書き溜めていた曲を仕上げて集大成作品を出し、一旦キャリアに区切りをつけたかったんでしょう。あるいは、ファンがあらぬ同情心を抱いてしまう前に、一刻も早く健在ぶりをアピールしたかったという、戦略的な判断も大きいかもしれない。

そんな諸事情により、いささか早急に作られた感はあるものの、ソングライティングの質はまったく衰えてない。事故の痕跡など微塵も感じさせない、穏やかでソウルフルなナンバーがズラッと並んでいる。そういう意味では、「作風」に縛られないスティーヴィーならではのフラットな歌が素直に表現されている、とも受け取れる。なんにせよ、スティーヴィーの音楽はあの美しいメロディー・ラインがなければ始まらないので、そこはキッチリ期待に応えてくれている。(バラッドがまた泣けるんです)
全体的にこのアルバムは、『インナーヴィジョンズ』のようなストイックで張り詰めたムードは望めない。だがそのぶん、スティーヴィーの歌をいくぶんリラックスしながら開放的に楽しむことができる。ぽかぽかとした初夏の日差しを浴びて、「ひなたぼっこ」でもしながら聴きたい一枚。
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