■退散
●二、三日前
雨の中、新大阪駅近くのホテルで
「全体集会」というのがあって
行ってきた。
300人ほど集めた、
マンション管理員の研修会みたいなもので、
社長の話のあと、1時間半の講演が二つあり
そのあとは、立食パーティーで
「年一回の懇親会」の意味合いもある。
●だいたい、このような講演や会議では、
つい眠ってしまうのだが、この日も
半分、眠って聞いていた。
ひとつは、高齢化が進みマンション住民にも「認知症」の方が見受けられる
ようになったが、管理員は「認知症」の方々にどう接したらいいのか、
という話。
もうひとつは、第一印象と笑顔、という講演で、
日々、居住者に接している管理員は、はたして
居住者にどう見られ、どう思われているのか、
第一印象と笑顔と、その意義と効用について語っていた。
●半分、眠って聞いているのだから、
たいしたことはいえないのだが、
どちらの話も、まあ
もっともな話であった。
1番目の講演は、なんという独立行政法人であったか、そこが推し進める
「認知症サポーター100万人キャンペーン」というプログラムの一環で
行われていて、
眠って聞いていた私にも、その「サポーターバッジ」をくれた。
●いつの頃からだったか、この手の研修会の「講師陣」に
「○○○コンサルタント」という肩書きの人がふえた。
社内教育に、専門家・大学教師・著名人を呼んで
講演を依頼することは、ずっと昔からあった。
しかし、それは簡単に言えば「薫陶」を受けるためであって、
「現場」を教えてもらうためではなかった。
でも、いまはちがう。
●NPOとコンサルタント会社から派遣された二人の女性講師の話が終わり、
「さて、次はいよいよ、階を移して、この上の宴会場で立食パーティーです」
と司会者が報告すると、これまで沈黙していた会場に、安堵とどよめきに似た
声が起こる。
わたしは、階段をぞろぞろ上る仲間の脇を抜けて、
会場横のエレベーターで下に降り、駅に向かう。
新大阪からは、大阪駅でいったん降りて、神戸駅までの切符を買うと、
70円安い。
雨はやんだ。
ひと駅だけの電車の窓から外をながめる。
しっとり濡れた夜景のネオンが見える。
カバンには、宮本輝『本をつんだ小舟』がある。
大阪駅の構内の喫茶店で、わたしはそれを読むつもりだ。
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