内田樹「街場の米中論」2023年12月東洋経済新報社刊
最近、「もしトラ」という言葉をよく見聞きするようになりました。
その意は、「(今年の秋の米大統領選で)もしトランプが再選されたら」ですね。
それはないだろう、と思いきや、可能性としてはあり得る情勢のようなので、世界が
もしそうなったら、どうすべきか、対策を考え始めたようです。
一時の勢いはないにせよ、現在の最大の覇権国なので、そうせざるを得ません。
もう一方の覇権国・中国も、習近平がそれまでの約束事を破る形で、昨年、第3期の
政権をスタートさせたばかりで、台湾との関係が緊張感を孕んでいて、対外的な
動きに目が離せません。
現代の地政学を考える上で、避けて通れない、アメリカと中国がこれからどう動くか
について、内田樹さんが、両国の成り立ちから考察したのが本書です。
個人の思考や行動にクセがあるように、国の思考や行動にもクセがあります。
そのクセは、現象面だけでなく、成り立ちまで遡って考えると、案外見えてくるものが
あります。
本書の惹句を紹介しましょう。
”疫病と戦争で再強化される「国民国家」はどこへ向かうのか。
拮抗する「民主主義と権威主義」のゆくえは。
希代の思想家が覇権国「アメリカ」と「中国」の比較統治論から読み解く。”
内田樹さんは言います。
”アメリカにはアメリカの趨向性(あるいは戦略)があり、中国には中国の趨向性
(あるいは戦略)がある。それを見分けることができれば、彼らが「なぜ、こんな
ことをするのか?」、「これからどんなことをしそうか?」について妥当性の高い
仮説を立てることができる。それがこれからこの本の中で僕が試みようとしている
ことです。”
”アメリカと中国というプレイヤーがどうふるまうかによって、これからの世界の行方は
決まってきます。この二つの超大国がどういう統治原理によって存立しているのか、
短期的な政策よりも、基本的にどのような趨向性を持っているのか、それをよく観察
して、世界がこれからどういう方向に向かうのか、どのような分岐点が未来に待ち受け
ているのかを考えます。”
目次の抜粋と小見出しの抜粋も紹介します。
第1章 帰ってきた「国民国家」時代の主導権争い
・米中どちらが主導権を握るか
・国家の趣向性
第2章 自由のリアリティ
・食い合わせが悪い「自由」と「平等」
・つねに「始原の問いに立ち戻る」アメリカ
第4章 解決不能な「自由」と「平等」
・合衆国憲法が常備軍の保持を禁止している理由
・解決不能の葛藤を抱えた国
第5章 ポストモダン後にやってきた「陰謀論」時代
・陰謀論が蔓延する理由
・求められたシンプルな物語
第8章 農民の飢餓
・中国崩壊のパターン
・「ポスト習近平」の時代
・地政学と民族心理
第9章 米中対立の狭間で生きるということ
・不愉快な隣人たちとの共生
・「自由と平等」に欠かせない「友愛」
内田樹さんは、地政学を論じると、非常に面白い卓見を頻発されます。
それは、最初にも書きましたが、現象面だけでなく、国の成り立ちに遡って、思考や
行動を剔出されるからだと思います。
なるほどと、目から鱗が落ちる指摘もいくつもありました。
二つの覇権国だけでなく、基本的に外国は、「不愉快な隣人たち」ともいえますが、
これからの日本は、そのような隣人たちと付き合っていかざるをえません。
その際、相手を知って対応することが、ますます、求められるかもしれないですね。
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