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2024年01月12日16:43

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読書日記N o.1588(「黒い歌」もある、俵万智最新歌集)

■俵万智「アボカドの種」2023年10月KADOKAWA刊

3年ぶりに、俵万智さんの第7歌集が刊行されたので、手に取りました。

早速、惹句を紹介します。

”《言葉から言葉つむがずテーブルにアボカドの種芽吹くのを待つ》”

”一首一首、自分の目で世界を見るところから、歌を生む。言葉から言葉をつむぐ
だけなら、たとえばAIにだってできるだろう。心から言葉をつむぐとき、歌は命を
持つのだと感じる。 迢空賞受賞後初、待望の第7歌集。”

第1歌集「サラダ記念日」から、第3歌集までは、恋の歌、第4歌集〜第6歌集までは
子育ての歌、という強烈なモチーフがありましたが、このだ7歌集は、両親の介護や
ご自分のがん治療の歌など、これまでになかったモチーフの歌も入っています。

これまで、人生のいい面を詠んでこられた俵万智さんも、珍しく「黒い歌」を何首も
詠んでいます。

まずは、そんな介護の歌を紹介。

・電話なら優しく聞ける雪の日の愚痴でできてる母の体調
・どんづまる梅雨の日に聞く「死にたい」は願望ではなく不満の言葉
・愚痴・不満・悲観・諦念、母からのマイナスイオンたっぷり浴びる
・白い娘黒い娘がおりましてどちらが出るか日替わりランチ
・切り札のように出される死のカード私も一枚待っているけど

自らのがん(リンパ腫)治療の歌も紹介。

・放射線からだに降らすこの春の白湯と桜の日々いつくしむ
・採血のたびに謝る看護師の声やわらかに針雨の降る
・空中に繰り返し書く指で書く「い・た・い」はあと一文字で「あ・い・た・い」
・九度目の治療となれば電極もエステのように付けられている
・ちょうどいい死に時なんてないだろう「もう」と思うか「まだ」と思うか

イーロン・マスクが、ツィッターをXにしたとき、風刺した歌もありました。

・言の葉をついと咥えて飛んでゆく小さき青き鳥を忘れず
・このままでいいのに異論は届かないマスクの下に唇を噛む

元カレと30年ぶりに会った歌などもありました。

・シャルドネの味を教えてくれたひと今も私はシャルドネが好き
・「どうだった?私のいない人生は」聞けず飲み干すミントなんちゃら
・書棚から取り出している第二歌集ひらけば君の匂いこぼれる

ホストたちの歌を評価し、ご自分でもホスト万葉集を詠んでいました。

・深海魚のように男ら集まりて歌を詠むなりホストクラブに
・グラス持てばしなやかに反る長き指折りて数える五音七音
・コロナ禍にネオン灯らぬ歌舞伎町詠んで寂しい花いちもんめ
・はずすときがっかりされてもいいじゃないマスクイケメン、マスク盛れ盛れ
・年末は家族のことが詠まれがちホストにわりとばあちゃん子多し

そして、やはりこの歌集の核の歌は、冒頭のアボカドの歌、俵万智は、あとがきで
次のように言います。

”陶芸家・富本憲吉の「模様より模様を造るべからず」という言葉は、すでにある
模様を利用して次の模様を造るのではなく、一回一回、富本は自分の目で自然を
観察して模様を生んだ。”

”私の言葉も、そうありたいと思う。一首一首、自分の目で世界を見るところから、
歌を生む。言葉から言葉を紡ぐだけなら、たとえばAIだってできるだろう。心から
言葉をつむぐとき、歌は命を持つのだと思う。”

”言葉から言葉つむがずテーブルにアボカドの種芽吹くのを待つ”

心に染みる、歌の論ですね。

最後にあと何首か、本書から引用して終わりにします。

・二人に一人は癌の時代と聞きながらならないほうと思っておりぬ
・遺伝子がコピーミス’してDANGERがCANCERになる如月の夜
・恋、結婚、子育て、運転、引越しの「する」は「しない」よりも偶然
・言葉とは心の翼と思うときことばのこばこのこばとをとばす
・人生は長いひとつの連作であとがきはまだ書かないでおく

俵万智さんの歌集は、ずっと読んでいます。

3年前の第6歌集の読書日記も、最後に紹介しておきますね。↓

https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1978420289&owner_id=5540901
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