ストロング小林さん追悼(440)

79年新日本プロレス「新春黄金シリーズ」を総括してみたいと思います。エース格のボブ・ループは結局、ノーフォール負けで帰国しましたが、その独りよがりの試合ぶりが猪木の逆鱗に触れ、２度と来日することはありませんでした。

アマレスのオリンピアンだけに、一旦、防御の体勢に入られてしまうと猪木といえども容易に攻略することができず、１月12日、川崎市体育館でのＮＷＦヘビー級選手権試合は猪木には屈辱的な試合内容でした。後のインタビューにおいても猪木は不満足なコメントをしていますが、ループにとっては「生涯ベストマッチ」と言える位の自己評価の高い一戦でした。

ループにとってみれば、自分のやりたい事はすべてやらせてもらった上、猪木の動きを完封してしまった訳ですから、対戦して気分がよかった試合だったことは間違いないでしょう。

ＮＷＦ北米ヘビー級王者ジョニー・パワーズは73年12月10日に猪木にＮＷＦ世界ヘビー級王座を、今回坂口に北米ヘビー級王座を奪われ、完全に丸腰になってしまいました。しかし、フォール負けは１月26日、岡山武道館での北米ヘビー級選手権試合での坂口戦のみ。

猪木とは２度シングルで対戦し１両リン、１ノーコンテストでフォール、ギブアップ負けはシングル、タッグを通じてなし。坂口ともタイトル戦以外では１ギブアップ勝ち、１リングアウト勝ちと勝ち越しでストロング小林には土つかずの勝利でした。

他は中堅どころのアンダーカードばかりで、メインイベントに登用された機会も少なく、マッチメークの主軸からは外されてしまいましたが対戦成績はまずまず合格点。北米ヘビー級王座を新日本プロレスにもたらす役割ということで、今シリーズに関しては大事に扱われていたように思います。

国際プロレスからＵターンしたクルト・フォン・ヘスですが、坂口とは両者リングアウト、反則負け、Ｓ小林にはフォール勝ち、リングアウト勝ち、長州力以下にはフォール勝ちと出戻りの割には扱いはよかったです。

やはり、カール・フォン・ショッツとのタッグで北米タッグ王者だったという実績は新日本プロレスでは商品価値は高かったと言えます。仕事ぶりも「タッグ屋」に徹し、ループとマネージャーのグレート・マレンコのヒールっぷりをうまく引き出して見せました。新日本プロレスへはこれが最後の来日となり、翌80年８月には全日本プロレスへ転出することになりますが、馬場がヘスをいいポジションで使う訳もなく、これが日本での最後の全盛期となりました。

２度目の来日となったトニー・ロコは新日本プロレスの水にも慣れて、本領を発揮しました。スピーディーな小気味良いラフ＆テクニシャンタイプで日本のファンのハートを掴みました。タッグながら長州、木戸修といった実力者から１フォールを奪っており、シリーズ最終戦の２月２日、札幌中島スポーツセンターからのテレビ生中継ではセミファイナルで猪木のシングルマッチの相手を務めました。次回以降の来日では藤波辰巳のＷＷＷＦジュニア・ヘビー級王座のタイトル戦線に名乗り出ることでしょう。

初来日の前ＷＷＷＦジュニア・ヘビー級王者、カルロス・ホセ・エストラーダは藤波の海外遠征で割を食ったか？テレビには１月26日、岡山武道館大会１度だけの出場、ほとんど印象に残らなかったです。ベテランのジョバーだけに、テレビマッチのメインやセミに登用すべき実力者で、ちょっと勿体ない感じがしました。ロコと比べると明らかに影が薄かったです。

初来日のヘクター・ゲレロ。チャボの弟で、来日前のロサンゼルスでの活躍ぶりを見ると新日本プロレス側も期待していたフシはあったようですが、如何せん線が細く、新日本プロレスの若手・中堅にどうにかついて来れた印象でした。22歳の若手であり、まだまだこれからの選手でした。
　
しかし、新日本プロレスへの来日はこれ１度きりに終わり、81年の新日本プロレスvs全日本プロレスのレスリング・ウォーの影響を受け、兄のチャボが全日本プロレスに移籍したのを機に、ヘクターも83年４月には全日本プロレスのリングに参戦することになります。

初来日のセントクレアーですが、80年前半以降、新日本プロレスのレギュラーとして定着し、メインイベントにもしばしば起用されていたのを知るファンの方であれば、「えっ！こんな成績？」と思われる方もいることかと思いますが、当時は身体の線もまだまだ細く、扱いも最下位のポジションでした。来日を重ねる度に新日本プロレスのスタイルも徐々にマスターし、新日本プロレスの中でも確固たるポジションを築き上げて行くことになります。

藤波が海外遠征の為に序盤３試合しか出場せず、観客動員にも影響は多少あり、川崎市体育館、岡山武道館、最終戦の札幌中島スポーツセンターは満員マークはつかなかったです。ドラゴンの抜けた穴は大きかったと言えるでしょう。