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2022年05月14日21:38

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【音楽】 山田磨依ピアノリサイタル

昨日からの雨も昼には上がり、午後は山田磨依ピアノリサイタルを聴きに経堂に行った。
プログラムは次のとおりである。

 ・ダマーズ:おとぎ話16のピアノ小品より
            第1曲、第3曲、第7曲、第11曲、第13曲
 ・ブリッジ:おとぎ話組曲
 ・トマジ:あやつり人形
 ・ダマーズ:トッカティーヌ
 ・ダマーズ:4つの小品
 ・ダマーズ:8つの練習曲より 第8曲
 ・ダマーズ:朝に
 ・ダニエル=ルシュール:パヴァーヌ
 ・ダニエル=ルシュール:舞踏会
 ・ダマーズ:ピアノソナタ

   ピアノ:山田磨依
   会場:C’est si bon 響堂ホール (15:00 開演)
   
経堂駅でおりるのも久しぶりだし、C’est si bon 響堂ホールには初めていくが、場所はすぐに分かった。数十人でいっぱいになる小さなホールだが、今日は満席だった。この演奏会はもともと2月に予定していたものだったが、新型ウィルス感染症の影響で今日に延期になったのだ。もう人数制限はないが、それがなくなれば満席になるのだ。このように「有名曲が全く入っていない」演奏会で、これは素晴らしいことである。実際、私もほぼすべてが初めて聴く曲だ。

山田磨依は、ジャン=ミッシェル・ダマーズ(1928-2013)の作品に早くから魅せられ、あまり知られていないこのフランスの作曲家の作品を演奏することを、ライフワークとして取り組んでいる若手ピアニストである。約5年前にたまたまCDを買い、銀座で生でも聴いた山田磨依の演奏に出会わなければ、私もダマーズを知ることはなかったかもしれない。つい最近まで存命だった現代の作曲家だが、新古典的な様式を貫き、その作品は明るく優しく美しく、とても聴きやすい。今日の演奏会も「ダマーズを中心に」というプログラムである。

白いドレスで登場し、早速演奏が始まる。ダマーズの「おとぎ話」から、「眠れる森の美女」、「長靴をはいた猫」、「青い鳥」、「赤ずきん」、「白猫」と5曲を選んでの演奏で、おとぎ話の世界が一気にひろがった。明るく楽しく、時にユーモラスに、ちょっとエスプリも効かせた作品で、それを見事に表現した演奏である。これとの聴き比べということで、ブリッジの「おとぎ話組曲」が続く。2曲目が「人食い鬼」というタイトルで、なんだか恐ろし気だが、実はちょっと臆病な鬼なんだそうだ。聴いてみると、そんな感じにも聞こえる。トマジの「あやつり人形」は、おどけた雰囲気の中に、人形の内なる悲哀が込められているような曲ということだ。山田磨依の演奏前の解説が分かりやすく、どのように表現したいかをきちんと言葉にして、実際に演奏で示しているようで、全く初めて聴く曲ばかりなのに、すごく馴染んだ曲のように感じるのである。

さらに、ダマーズの小品が続く。山田磨依によれば「わびさびの音楽」である「トッカティーヌ」。細かい動きの曲の中に「わびさび」を見出すとは、他で聴いたら得られない感覚かもしれない。4つの小品は、なんとも素朴な雰囲気の第1曲だが、こういうのを「自分にも弾けそう」と思ってしまうと、とんでもないことになることはいうまでもない。その一見素朴な音楽から、ちょっと不安気な音楽を経て、最後は幸福の絶頂へと登っていくような4曲。短い4つの小品が大きなドラマになっているようだ。この2曲目は、山田磨依の愛猫もお気に入りの曲らしい。練習曲第8曲は、なかなか難易度が高く「手が届かない」作品だったというが、やはり素敵な曲なので是非弾きたいとチャレンジしたそうだが、きちんと弾きこなしているとしか思えない演奏である。

休憩のあとは、黒いドレスに着替えて登場し、ダマーズの「朝に」から再開する。今日のプログラムではもっとも新しく、ダマーズが72歳の時の作品だそうだ。まさに明るい一日がはじまる素敵な朝という感じであった。続いては、ダニエル=ルシェールの「パヴァーヌ」と「舞踏会」。これはなかなか洗練された曲という印象である。

そして、最後にダマーズの大曲のピアノソナタである。第1楽章の冒頭からいきなり激しく、小品とはやや雰囲気の違うところも感じられ、音域も広くて、いろいろな要素が詰まっているようでいながらも、全体としてはダマーズらしい素敵な音楽であり、なかなか聴き応えのある作品だった。ダマーズの、そして山田磨依の熱い思いが伝わってくる演奏であった。

ダマーズの作品については、おそらく日本国内では山田磨依が第一人者であろう。単に珍しい曲を弾いてみましたというだけではない。作品の魅力を余すところなく伝えようと研究を重ねて、それを演奏という形で聴かせてくれる訳で、演奏技術だけではなく、作品に対する深い理解と愛が込められているのだ。これからもますます期待がかかる。

最後にアンコールとして、イギリスの作曲家の作品がプログラムに1人だけ紛れ込んでいたからという訳で、ウィリアム・ロイド・ウェバーの「エクスプラネーション」と、ディーリアスの「前奏曲」を演奏、最後にダマーズの「散歩」でしめて、素晴らしい演奏会を終えた。

会場を出る際に、今日は素晴らしい演奏会だったこと、そもそも山田磨依さんに出会わなければダマーズの素晴らし作品を知る機会もなかっただろうことなどを伝えて、ゆっくりと経堂駅まで「散歩」しながら帰った。
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