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2020年01月14日15:12

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二兎社公演 『私たちは何も知らない』

1/13(月)、穂の国とよはし芸術劇場PLATにて二兎社の新作公演『私たちは何も知らない』を観る。
言わずもがなだが、作・演出は二兎社を主宰する永井愛。
二兎社公演は一昨年2018年8月に、『ザ・空気ver.2〜誰も書いてはならぬ』を同じ場所で観ている。

参)https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1968183046&owner_id=3341406

他は放送による鑑賞だが、2016年に『書く女』、2015年に『森鷗外の怪談』を観た。

今回の『私たちは何も知らない』に登場するのは、平塚らいてうと、彼女が創刊した月刊誌「青踏」のメンバー達である。

〈キャスト〉
平塚らいてう/本名明(はる) 朝倉あき
伊藤野枝 藤野涼子
岩野清 大西礼芳
尾竹紅吉(こうきち、またはべによし) 夏子
保持研(やすもちよし) 富山えり子
山田わか 枝元萌
奥村博 須藤蓮

〈スタッフ〉
作・演出 永井愛
美術 大田創
照明 中川隆一
衣裳 竹原典子
音楽 熊谷太輔/AZUMA HITOMI


本シリーズは、2019年11/24に埼玉県富士見市文化会館「キラリ☆ふじみ」からスタート、東京芸術劇場シアターウエストの長期公演を挟んで、2/9迄各地10ヶ所で行われる。
ここ豊橋は7番目。

平塚らいてう(1886-1971)は、1911(明治44)年、困難を乗り越え、女性だけで月刊誌「青踏(せいとう)」を作り発行した。
明治末〜大正期の日本では、女性に参政権はなく、政治活動も治安維持法で禁止されていた。家父長制の下、良妻賢母のみが女性の道とされていた時代である。欧米では既にフェミニズム運動が盛んになっていたが。
「青踏」は、日本の様々な婦人問題を提起し、女性に覚醒を促し、「新しい女」の出現を呼び掛けた。
らいてうの創刊の辞「元始 女性は太陽であった」は、大きな反響を呼んだ。

ただ、永井愛は、らいてう等の活動や苦悩を、昔こんな出来事がありました、というものにしたくなかった。
現代、表面的には女性参政権も男女同権も獲得されたが、果たして実態はどうだろうか。
永井は特に若い女性達が自分の切実な問題として意識し、議論する事を望んでいるだろう。
セクハラや男女差別は日常茶飯事、先般明らかになった大学入試問題他、挙げ始めたらキリがない。日本の女性の社会進出は世界で121位と悪化を続け、先進国の中では殆ど最下位に近い。

舞台がまだ暗い中で、らいてうの創刊の辞は、激しい打楽器のリズムによるラップで歌われる。

・・・

元始、女性は実に太陽であった。真正の人であった。
今、女性は月である。他によって生き、他の光によって輝く、病人のような青白い顔の月である。
(後略)

・・・

その後も、さまざまなエピソード間をつなぐのは、ラップの現代のリズムである。

言葉は現代の俗語にされ、彼女等が着る衣裳も今風のそれだ。
机や椅子等小道具は当時のものだが、その間で怒り悩み泣き笑う彼女等の生々しい心情は、現代を生きる我々のそれでもある筈だ。

アフタートークで永井は言っていた、シェイクスピア劇だって現代衣裳で演ぜられる昨今、こうした音楽や衣裳は一種の異化効果として、観客に、特に若い人達に親和感と違和感として刺さり、思考を呼び起こすに違いない、これらは他人事でないのではないか、と。

「青踏」を発行した時、らいてうは弱冠25歳だった。
伊藤野枝は17歳で青鞜社に入社し、らいてうから編集長を任されたとき、まだ19歳だった。
それでも、彼女等は臆することなく、真正面から女性問題を「青踏」に書いた。
そこから「貞操論争」や「堕胎論争」、「売春論争」等を引き起こした。
多くの議論を呼び、非難もされバッシングも受けた。
権力から発禁処分も数多く受けた。
しかし、ひるむ事なく、誌上で議論を戦わせ、「女性の身体は女性のものである(男性のものではない)」と主張した。
バッシングしたのは男性だけではない、多くの女性達も批判した。
時代はひたひたと戦争に向っており、女性は良妻賢母を求められ、子供をたくさん産む事を要求される。

メディアこそ違え、現代で言えばSNS上での炎上と似ている。
我々はつい炎上を怖れ、仲間外れになる事を脅えて、必要な主張をする事さえ忘れていないか。
そういう意味では、戦後女性が得た権利も如何にも表面的で、100年後の今、当時より果たして進展しているのかどうか、心許ない。

ラスト近く、らいてうは、「青踏」から離れていった伊藤野枝や尾竹紅吉や保持研と街路で出会い、会話を交わす。
らいてうは、それらの話から、まだ起こっていてない筈の関東大震災(1923)や、官憲によって伊藤野枝や大杉栄が虐殺された事を知る。
いまそこを歩いていた野枝は幽霊だったのか?
第1次大戦が起り、更に第2次大戦が起った事も聞く。
「母性保護法」成立に取り組んだ山田わかは、日の丸の小旗を振り、戦歌を歌っていた。
全部夢なのか?

事実婚という新しいスタイルを自ら取ったらいてうを、夫 奥村博が迎えに来る。
奥村が入院している南湖病院のある茅ケ崎の浜は、心地好い陽が射す。

突然暗転し、叩きつけるような激しいラップのリズム、舞台中央で向うを向くらいてうは、何かに呼ばれたかのようにこちらを振り向く。
目を見張ったその顔は驚愕と怖れに満ちている。
彼女が見ているのは何か?

(それは100年後の現代の我々の姿かもしれない。
彼女達が提起し正直に取り組んだ問題の本質は、21世紀の今も日本では何も解決されず、女性達は正面を見る事さえやめ、唇を噛んで俯くか、ただ虚ろな笑みを浮かべるのみ。)


永井愛は今後も観ていくつもりだ。
 

〈参考資料〉

『断髪のモダンガール〜42人の大正快女伝』
執筆 森まゆみ
発行 2010年文春文庫
 
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