mixiユーザー(id:2502883)

2019年07月03日23:08

27 view

山本章子『日米地位協定』(中公新書、2019年)を読む

 沖縄の基地問題が取り上げられるたびに、少なくとも私は保守とリベラルといった二項対立だけでは理解しがたいものを感じるようになった。確かに、日本及び東シナ海の秩序を維持、安定させるには、日米安保体制という枠組みは不可欠のものと考える。
 しかし沖縄に軍事基地が集中し、しばしば米軍による事故や事件が起きるなかで、基地の返還や縮小を求める声に対して、単に平和主義や反米イデオロギーがその原動力であるとは考えにくい。沖縄にも保守と革新は存在するけれども、たとえば沖縄の保守主義と本土のそれとは、利害が必ずしも一致しているわけではない。沖縄の平和と安全のため、日米安保体制が必要と考える人たちであっても、米軍基地があることによる不利益、基地が縮小することによる経済的利益があれば、その是正を求めることは何ら不思議ではない。

 これについては、櫻澤誠『沖縄現代史』(中公新書、2015年)や高良倉吉『沖縄問題』(中公新書、2017年)といった、沖縄の視点から捉えた優れた新書も出ている。沖縄にとっての近代、アメリカとの戦争と占領、そして本土復帰という歴史や経緯を踏まえ、かつ日米関係や地理的要因も前提にしないと十分に理解できない。これらの本は、私にそのことを教えてくれた。


 山本章子『日米地位協定』(中公新書、2019年)を読む。この本は、日米安保体制下における在日米軍の取り扱いについて定めた、いわゆる日米地位協定を中心に据え、その経緯や運用、問題点などを論考している。

 日米地位協定は、1952(昭和27)年に定められた日米安保条約が、1960(昭和35)年に改正された新安保条約に沿って、日米行政協定を更新するものとして日米間で結ばれた。基地や施設の使用や返還、裁判権について著しい不平等性が問題となっていた行政協定と比べれば、一定の「改正」はあったと評価できるものの、地位協定でもその不平等性が大きく改善されたわけではない。この本では、その内容についても詳しく紹介してある。

 それ以上に問題なのは、地位協定には米軍の行動に制限を加えていても、その合意のために作成された日米地位協定合意議事録が、それらの制限を空文化するようになっていることである。合意議事録はもともと非公開であり、国民の知らないところで日米間での暗黙の了解が繰り返されていた。
 これについて、冷戦期は日本にとって米軍の駐留が、日本と周辺の安全にとって不可欠の存在であったがゆえに、米軍に撤退されては困るという思いが強くあった。またアメリカ側も、米兵が他国で裁判を受け、処罰されることに対する世論の反発が根強くある。
 冷戦後、日本は自らの自衛力を高める方向に進んでいるものの、在日米軍による事故や事件は繰り返され、特に沖縄はその犠牲や負担を強いられている。


 先日、アメリカのトランプ大統領が、日米安保の破棄や改定に言及したことがニュースになっていた。もっとも、現時点でアメリカ政府や軍がそれを支持しているわけではない。
 しかし、トランプ氏の見解は、アメリカの安全保障政策にそれほど詳しくはない、アメリカ世論一般の声と連動している側面があることは無視できない。すなわちアメリカの世論には、未だに日本が安保にタダノリしているという意識が根強い。
 一方、日本は金銭面でも負担を増やし、また特に冷戦後は安全保障政策にも力を入れてきた。在日米軍が起こした事件や事故についても妥協を繰り返してきた。
 けれども、それが特に米軍基地が集中する沖縄の不満を抑え込むかたちできたことが、沖縄側からの反発を招く要因のひとつになっている。そして沖縄とそれ以外の人たちとの意識に大きな隔たりを生むことにもつながっている。

 こうした現状を理解するには、上でも触れたような沖縄独自の事情、日米安保体制など、絡み合う問題をひとつずつ解きほぐしていくしかない。専門家によるこうした本が多く世に出て、人びとの間で議論が深まることを期待したい。

http://www.chuko.co.jp/shinsho/2019/05/102543.html
1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する