mixiユーザー(id:3341406)

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2019年03月31日13:39

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「陣内平古墳」か？「神内平古墳」か？　発掘調査報告書から判った多くの事

先日、私が住む団地内にある「陣内平古墳」について書いた。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1970899941&owner_id=3341406

中で疑問に思う事や不透明な事柄があったので、その後調べてみると、いろいろ判ってきた。

市立図書館から核心的な内容を収めているであろう本を借りてきた。タイトルは「陣内平」ではなく『神内平古墳群』となっている。
細江町教育委員会が2005(平成17)年3/31に発行した書で、学術的な意味では最もオーソライズされたものと言っていいだろう。
引佐郡細江町は2005年7/1に浜松市に編入された。したがって、それ以降細江町教育委員会は消滅し、浜松市教育委員会がカバーしている。
この本の発行は、細江町教育委員会名で行った最後の目立った仕事と言えるかもしれない。

細江町教育委員会は、「神内平古墳群」の発掘調査を行った主体組織･責任組織である。つまり、この本は「神内平古墳群」の公の発掘調査報告書という位置づけになっている。
上にリンクした日記の中で書いているが、発掘そのものは1973(昭和48)年の9～10月である。
その発掘調査報告書が何故32年ものちの2005年に発行される事になったのか？
正確な訳は判らない。本の「序」において、「(幾つかの部分を)除き、昭和53年には初稿が出校されていたが、諸般の事情により中断を余儀なくされた」と簡単に触れている。
傍から見ると、発掘責任組織である細江町教育委員会がなくなってしまう前に何とか発行した、みたいに見えなくない。

まあ、脇道に入るのはやめにしておこう。

本はA4版で150ページを超えている。人の気を惹こうというそぶり等微塵もみられない学術書で、詳細な写真図版や挿図も豊富に挟まれている。
調査は日本考古学委員会の久永春男(2011年没)の指導の下に進められ、執筆は、調査員でもある伊藤悳,野口剛,仙田作吉,木下克己他、全11名によっている。

〈目次〉
第１章「神内平古墳群の位置と周辺の環境」
　第1節「位置と地形」
　第2節「地質」
　第3節「歴史的環境」
第2章「調査の経過」
　第1節「調査に至る経過」
　第2節「発掘調査日誌」
第3章「神内平第1号墳」
　第1節「位置と地形」
　第2節「調査の経過」
　第3節「墳丘と内部構造」
　第4節「遺物の出土状況」
　第5節「遺物」
　第6節「小結」
以下略。

第１章と２章で共通テーマをまとめ、第３章以下で古墳個別のレポートをする順序となっており、以下は省略したが、第8章迄ある。最後に「付載」として「細江町における古墳出土須恵器」が置かれている。

まず、「陣内平」か「神内平」か？について。
第3章第6節にこうある、
・・・1973年に実施した発掘調査では、「陣内平古墳」と呼称していた。その後「陣内平」は、地籍図により「神内平」である事がわかり、以後「神内平」と改めた・・・と。
つまり、地元では当時「陣内」という字を習慣的に充てるようになっていたが、「公図」「公簿」とも言われる「地籍図」を調べたら、「神内」と明記されていた、という事である。(*1)
主体者である細江町教育委員会も当初は「陣内平古墳群」の発掘調査をする旨公表をしたのだが、あとから気付いて「神内平古墳群」と字を替えたのだろう。
ところが、地元では「陣内平」が一般的に流布していたし、世間では最初の公表がそのまま生きてしまい、事後訂正は効を発しなかった。
それで、団地造成によって一旦全て消滅したのちに復元された古墳の説明板にも「陣内平古墳群」と表記されてしまい、今に至ってもそのままになっている、という事だ。

(*1)第２章第１節「調査に至る経過」にはこうある、
「昭和47年10月、三菱商事は、細江町大字中川字神内平地内の30haの土地を買収して浜松市近郊の一大住宅団地を造成し、750戸の宅地を分譲する計画を立て、細江町当局に対して開発の意思を表明した」。
その地籍図のコピーも挿図として入っている。

この説明板は、実は他にも大きな問題を残している。
復元された「帆立貝式前方後円墳」(古墳群の中で最大規模、他は皆円墳)は「3号墳」だと書いているが、実は「1号墳」の間違いであった。
1973年の本格発掘調査以前からここに古墳群があるのは知られていた。
その現われであろう、1956年に細江町史料調査会が発行した「細江の歩み」では、「便宜上、東から1号墳、2号墳、3号墳、4号墳と呼称」し、「3号墳は(中略)象形埴輪(ママ)が出土した」と書かれている。
1986年に発行された「細江町史」でも、形象埴輪が出土した前方後円墳は「3号墳」と書かれた。
ところが、1973年の調査時には、西から発掘地点の番号を付けた。
群の中で最大で唯一の前方後円墳はその番号によるとNo.2で、それを「第1号墳」とした。学術的にもこれが正式の表記になった。
だが、以前からの表記とこの発掘調査の表記はごっちゃになってしまった。
説明板で「3号墳」となっているのは旧来からのナンバーで、正しくは「第1号墳」なのだ。

この事はこの古墳のサイズ問題にも波及してしまっている。
第3章第3節には、奇妙にもこう形容している、「執筆者は明らかではないが、住宅団地内に作られた古墳公園の説明板の原稿によれば」と。
説明板にはちゃんと「細江町教育委員会」と明記されているので、教育委員会が教育委員会の文言を否定するという結果に陥っていて、あまり恰好のいいものではない。

同章同節では、続いてこの前方後円墳(第１号墳)のサイズについてこう書いている、「墳丘の規模は、図面と記録が所在不明のため明らかでではない。調査日誌によれば、後円部の直径は12m、前方部は西を向き幅3m、長さ2mと記録されている」。
それに対し、件の「説明板の原稿によれば、全長15.4m、前方部は西を向き、幅6.6m、長さ3.2m、後円部の直径12.2m、高さは前方部1m、後円部2.3m」とある。
更に「調査当時の新聞報道によれば全長17m、後円部の直径10m、前方部の幅5.5m、高さ1.5mである」と書かれた。
一体どうなっているのだろうか、どの数値が正解なのだろう？
公園の説明板も新聞の書き方も妙に具体的である。
「所在不明」の「図面と記録」が発見されればいいのだが、現状は「調査日誌」の数値を採りつつ、「明らかではない」訳を付記するしかないだろう。
もともとこの土地は、1956年には茶園に開墾され、「墳丘は削平されていた」との事である。

この削平のために、主体部つまり内部の墓も失われていて、確認できなかった。
ところが、説明板では「遺体は木の棺に納め、粘土でくるんで墳丘に埋められたと言われている」としている。この点でも矛盾をきたしている。
これは、最大の第１号墳ではなく、小さな２号,3号,4号の円墳の主体が竪穴で木棺を直接埋めた形式と推測された事から、ごっちゃになってしまったためであろうか。
また、旧来からの東からのカウントによる古墳ナンバーも、この混乱を助長したに違いない。

さて、正規の「第1号墳」からは多様な埴輪が多数発見された。それには興味深い形象埴輪が含まれている。
本書第３章第５節の整理によると、内、形象埴輪は以下の通りだった。

家型埴輪：2
人物埴輪：男性像1,女性像3(巫女を含む),力士2
器材形埴輪：盾2
動物埴輪：飾馬2,イノシシ(？)1,ニワトリ1
その他：管玉形(？)24

土や焼き方の仕分けも書かれているが、ここでは省略。
のちの組合せも含めて全身が完全な形で出土されたものはなく、部分にばらけてしまっているのは残念な事だ。

「力士」とは相撲取りの事を指しているのだろうが、こんなに古い時代から存在した事に驚く。無論現在の相撲興行とイコールだと考えてはならないだろうが。
愛知県の一宮町の念仏塚からも力士像の埴輪が多数出土されているとの事で、今回の事例が特別という訳ではなさそうだ。
今回の力士埴輪は「土俵入り型」と「取り組み型」に分けられるとの事だ。「前者は、芸能集団の一員として儀式を彩る舞を披露する力士」で、後者は「太く逞しく作られた」2本脚で立っている事から「職掌を表すもの」である事を指摘している。
「古墳築造にあたり、力士が台地を踏み地中の邪気を踏み鎮める所作が、儀式として完成され、それが埴輪祭祀に組み込まれた」との研究者の言葉は信憑性に富むと感じられる。
相撲のルーツを考える上でも参考になる示唆だ。(*2)

今回出土の力士2像は共に部分であるため、全身像を推測するのは困難だが、腰から股に締めた「まわし」を確認する事ができる。

(*2)同章最後の「注」にこうある、
「愛知県豊橋市牟呂町の八幡神社では、２人の力士が２回相撲をとり、その年の豊作を祈る行事があり、同市老津神社の神事、笹おどりでは、胸につけたたいこを打ち、力足を踏んで地下の悪霊を鎮める(中略)行事があるという」。

埴輪他の調査から、本書は、「神内平古墳群」の中で最大の「第１号墳」(唯一の前方後円墳)の築造時期を「５世紀後葉」と結論づけた。
古墳公園の説明板には「６世紀始め」と書かれており、ここでも相違がある事が判った。

第2号墳から第4号墳、及び「サワノカミ稲荷遺跡」でも興味深い記述が多々あったが、今回のレポートはここ迄にしておく。

・本の写真