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2019年03月22日12:00

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堀文子追悼文と『堀文子の言葉～ひとりで生きる』

これも、友人からもらった新聞の切り抜きだ。
堀文子の追悼文、3/8の静岡新聞である。
書いたのは、画家の野見山暁治。
しっとりとした、なまめかしい程とも言える追悼文だ。

そして、こちらは私が彼女の死を知ってすぐに書きとめた日記。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1970299265&owner_id=3341406

堀文子が90歳を迎えてから書き溜めたものをまとめた書『堀文子の言葉～ひとりで生きる』(2010年求龍堂発行)をもう一度読み直してみた。
老いと死について書きながら、しかし、まだ瑞々しい心は、野見山が書いた「初体験」を愉しみにもしている。
少しばかりランダムに拾ってみよう。

・・・・・・

Ⅶ 「自然への思い」より

ひまわり畠の終焉は、その時の私の何かを変える程の衝撃だった。ひまわりは頭に黒い種をみのらせ、生涯の栄光の時を迎えていたのだ。台地を見つめる顔は敗北ではなく、そのやせた姿にも解脱の風格があった。その顔一杯の種は、次の生命を宿し充実していた。

死が生涯の華々しい収穫の時だということを、ひまわりから学んだあの日を私は忘れない。

(中略)

自然は生きた日々の恨みつらみを消し、決して老残の醜さを見せない。死を迎える時の、あの紅葉の華やぎは命の輪廻を讃える神の仕業だと思う。
無心に生きるものには幸せも不幸もない。私もやっと、苦しみ傷ついたものの美しさに気付く時がきたようだ。

Ⅷ 「最後の絵」より

大抵のことは試し、己の限界も思い知らされ、残り少ない老いの日を迎えた今、私の選んだ一間暮し。誰に遠慮もせず捨てること、縮小することがかなえられたのが嬉しい。

家族の為に作った母屋には、もう母も姉たちも居ない。皆天に還った今、広い座敷も什器も私には無用になった。わずかに残された大切なエネルギーを自分の為に使おうと、遅すぎたがやっと気付いて、母屋を去ったのだ。

この先、どんなことに驚き熱中するのか。私のなかの未知の何かが芽を吹くかもしれないと、これからの初体験に期待がわく。私にはもう老年に甘えているひまなどないのだ。

死は、人間に課せられた一度きりの初体験であり、誰の真似もできず、誰の助けを借りることもできない。私がこれからどのような過程で死を迎えるのか、私は私の成り行きを眺めるつもりである。

始まりと生と終わりの死が一つの輪になっていて、永劫に続く命の輪廻がわが身の中にあり、それを静かに見詰めている自分に驚いている。

九十の齢を迎えた今、逆らうことを忘れ、成り行きのままに生きる安らぎの時が、いつの間にかきたようだ。

王者の威厳をもつ、この老木の下で、今私は最後の絵を書いている。

・・・・・・

最後の一行に現れる「老木」とは何か、Ⅶにもう一度戻ってみよう。

・・・・・・

アトリエの庭に立つ、樹齢五百年以上経つ十八メートルもあるホルトの木。
土地が元の持ち主から人手に渡り、この木が伐られることになったとき、長い歴史を生きた木の命が、目の前で抹殺されるのを許せず、この木の命を救う道は、ただひとつしかない。土地ごと買うしかないと決心しました。利益追求を国是とし、自然破壊を恥とも思わぬこの国への怒りが爆発したのです。自分の歳を考えないで、むきになってしまいました。

私は、この巨木の命を救えたことを喜び、その肌をさすっては末永い長寿を祈った。この為に得た土地に建てたアトリエが、私の最後の仕事場となった。ここを買う為に背負ったバブルの最盛期の多額の借金は、老後の私の蓄えの全てをなくしたが、木の命を救えた喜びで、悔いはなかった。
　

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