昨2018年3/24,25にBS-TBSの[落語研究会]で放送された第154回,155回の録画を、1年も経って今頃ようやく観た。
[落語研究会]は1905(明治38)年から続いているプロフェッショナルな興行で、1968(昭和43)年の第5次落語研究会からはTBSが主催、厳選して放送もしている由。
第5次が始まって既に50周年を越え、回数も600回をオーバーしていると言うのだが、冒頭に書いた「第154回,155回」というのは何のことか、想像するにTBSで放送した回数なのだろうか？
154回が1時間、155回が2時間の番組になっていて、どういう編成になっているのかも、よく判らない。
それはともかく、当時、落語の今後に危機感を持った噺家達が、落語の研究、後進の養成、寄席改良を目的に掲げ、本格落語を目指してこれを始めた。
現在では、これに出演する事は噺家のステータスともなっているようだ。
会場は国立劇場の小劇場。
演題は以下の通り。
・柳家小満ん『夢金』
・柳亭左龍『羽織の遊び』
・入船亭扇辰『雪とん』
・柳家小三治『お化け長屋』
今回は、久し振りに観た柳家小三治について書く。
あんまり久し振りだったので、舞台に出てきてすぐ、大分お年を召されたなと感じた。昔は角刈りにごつい体格というイメージがあったが、頭は丸くなり、肩の線もしんなり。
公演日のデータテロップはなかったが、現時点で数えると早や79歳になる筈。リウマチを抱えているという話も聞き、大丈夫なのかなと思った。
マクラの部分は、結構間を置いたゆっくりした話になった。
ある物の名が出てこなくて、客席から「〇△」と言われて、「そうそう、それ」と言って話をつないだ。
その渡り方が面白くて、全然悲惨ではなかった。(*)
昔から小三治はマクラが抜群に面白い事で知られてきた、「マクラの小三治」と呼ばれた時代もあった。全編マクラという高座もあったと聞く。
(*)先代の林家正蔵の怪談噺の思い出。当時は舞台に霧を出すのに、弟子がドライアイスを水に入れて、団扇で煽いでいた。その「ドライアイス」という言葉が出てこず、「水に入れるとブクブクと泡が出てくるやつ」。
すると、客の一人が「ドライアイス」と言ってくれたので、
「そうドライアイス。・・・これからはね、自分独りじゃできないんですよ」。
からりと自虐。客席は大笑い。
そんな感じでマクラが済み、さて本題に入ると、とたんに本来のキレのあるテンポが戻った。稽古を重ねたものは身体が憶えているものだなと驚いた。
『お化け長屋』は江戸時代後期の滑稽本作者 滝亭鯉丈が1823年に出版した『和合人』を元に、自ら膨らめた噺とされているが、よくは判らない。
上方では『借家怪談』と言われている由。
長屋に一軒の空き家があり、住人達はそこを都合よく物置に使っている。大家からは、それらをどかすか、店賃を払えと叱られる。
これを便利に使っている連中は、無論店賃は出せないが、大家の物言いも気に入らない。黙っておとなしく聞いていたら、そのうち店賃の値上げという事にもなり、それも呑まなければいけないハメになる。
そこで、長屋一の古株、通称古狸の杢兵衛が一計を案ずる。
周囲の連中に、空き家を借りたいという人が来たら、大家は遠方に住んでいて、差配は杢兵衛が任されているからと説明して、私のところへ回してくれ、と。
早速借りたい人物がやってくる。
杢兵衛は、回りくどい言い方で、たぶん敷金は要らない、店賃も要らないんじゃないか…、等と妙な言いっぷり。
実はあの空き家には、周囲から口説かれる程の色っぽい後家さんが住んでいたのだが、ある晩泥棒が入った。その泥棒、寝ている後家さんを見てムラムラときた。2人相争ううちに、泥棒は胸から短刀を出して後家さんを殺してしまった。
その後、この空き家に住む人には、しばらくすると後家さんの幽霊が出て、「恨めしい〜」。
そんな訳で、あそこには住人が居つかない。
店賃が要るかどうかというのも実はそんな訳で、と杢兵衛はある事ない事しゃべる。
杢兵衛の話っぷりは如何にも怪談噺のような語り口。
後家さんの幽霊は、よく越してお出でで〜と、血だらけの顔を近づけて、冷たい手で寝ている人の顔をこーやって触りにくるんですよ、と。
借りにきた人の好い男は、最後に冷たい濡れ手拭いで杢兵衛に顔をそろっとなでられ、悲鳴を上げて逃げていった。
この2人のやりとりが、実に面白い。
しばらくすると、また借りたいという人物が現れて、杢兵衛の家を訪ねる。
今度はイキのいい江戸っ子の職人で、まどろっこしい話は大嫌い、つまり何だ、早く結論を言えと、怖がるどころか、杢兵衛の話にちょっかいを入れてくる始末。
前回で自信を持った杢兵衛だったが、同じようにはいかない。
2人の人物の反応の違い、杢兵衛の思うようにいかずあたふたする様子が、面白くて面白くて、笑いが止まらず、つい涙が出る。
今度は濡れ手拭いを男に取られて、逆に杢兵衛が顔をごしごし拭かれてしまう。
タダならすぐ引っ越してくる、と男は走って出ていった。
柳家小三治、1時間という長丁場をたっぷり話して笑わせてくれた。
老いてもまだまだ愉しませてくれそうで、大変に心強い。
ログインしてコメントを確認・投稿する