年始1/3にNHK-BSで放送された『欲望の資本主義2019〜偽りの個人主義を越えて』の録画を見た。
このシリーズは2017年から始まっていて、今回が第3回目。
・第1回『欲望の資本主義2017〜ルールが変わる時』
・第2回『欲望の資本主義2018〜闇の力が目覚める時』
今回は、第3回の放送前に、第2回の再放送もしてくれたので、それも併せて見た。確か、昨年の年明けに見ていると思うのだが、何故か日記にその事は書いていない。
より速く、より多く、より効率的に…、市場の原理とテクノロジーが加速させてきた資本主義。その源はつまり人間の欲望と言っていいだろう。
「欲望」をキーワードにして資本主義を見え直してみるとどうなるか、というのが番組の企画意図である。
今、世界は格差や分断が拡大している、それはいつどこから来たのか？
番組は経済や哲学,歴史その他の分野で発言する世界トップの知性達にインタビューし、あるべき社会を再考するためのドキュメンタリーになっている。
約2時間の構成は以下の通り。
〈前半〉
第1章「今、資本主義という怪物が暴れる」
第2章「暴走の犯人は新自由主義？」
第3章「GAFAという陰の演出家」
第4章「怪物の深層にあるのは？」
第5章「市場は全て自由のために？」
第6章「国家 VS 市場」
〈後半〉
第7章「仮想の野望が世界をめぐる」
第8章「繰り返す夢」
第9章「貨幣愛のジレンマ」
第10章「巨人の後悔」
第11章「市場を科学した果てに」
第12章「合理的思考のパラドックス」
最終章「経済学の父が見ていた人間」
ここで全体を解説する事はできる訳もないので、私の興味に従って書く事にする。
◆第1章「今、資本主義という怪物が暴れる」
英国で起きている事を例に挙げてみる。それは多かれ少なかれ先進諸国の悩みと同じだろう。
2016年1月、ブレグジット = British + exitの造語。国民投票の結果、僅差でEU離脱を選択。
2018年10月〜、ブレグジット反対の大規模デモ。
議会で離脱の方策の具体案が議決されず、「合意なき離脱」という最悪のシナリオに突入する可能性も。
国民投票やり直し要求のデモ、移民排斥のデモ、極右反対のデモ、等々、揺れに揺れる英国。
経済の混乱×国家への不満、人々の憤りの図式、これは何処から来たか？
ライアン・コリンズ(マクロ経済学者/英)
・・・ロンドン始め先進諸都市の住宅価格は平均年収の7倍にも高騰している。原因は、金融業界の規制緩和と住宅ローンの証券化が相まって、不動産にマネーが流れるようになったから。つまり、住む場所迄が証券化した結果だ。
不動産の価格が上がれば資産が増えていると考える。それはウェルカムだ、と。こういった一連の考えが政治家や規制当局への圧力となり、地価上昇を促している。
そして、資産増は税収増に連動する。
チャート化すると、下のようになる。
<地価アップ → 政府の税収アップ>
しかし、その結果、若い世代が家を買えない状況に追い込まれている。
銀行等の金融業界は、不動産価格の上昇によって利益が拡大する。不動産を担保にして金を貸しているから、価格が上がる程儲かる。
住宅問題を巡るダメージは、米国でも深刻。
2008年のリーマン危機以来立ち直れていない。
証券化したマネーが飛び交い、ドミノゲームを引き起こす現代の資本主義。
そのルーツは何処にあるのか？
コリンズは明快に答える、即ち、英国ではサッチャー首相、米国ではレーガン大統領の時代、「新自由主義(ネオ・リベラリズム)」経済へのパラダイム転換が起きた。1980年前後の事だ。
◆第2章「暴走の犯人は新自由主義？」
1980年代、第2次大戦後の高度成長も一段落し、世界経済は頭打ちになっていった。
その時に登場した2人のリーダー、レーガン&サッチャー。
彼等は市場の自由を解放し、競争を推し進めた。
<規制緩和、減税、民営化 → 市場の自由>
この時代の経済政策は、全てを市場に委ねる「新自由主義」と呼ばれるようになった。
ロバート・スキデルスキー(経済学者・歴史学者/英)
・・・新自由主義によれば、金融システムはコントロールする必要がない。市場はいつも正しいと信じているから。
1980年代以降の富と所得における格差の大幅な増加等が、ポヒュリズムの台頭や、人々のシステムに取り残されたという気持ちにつながった。
<新自由主義 → 不平等
→ ホピュリズム>
経済の不安定や格差の拡大によって、今、人々の怒りが溢れている。その余波が、ブレグジットや経済ナショナリズムとなって現れている。
トランプもそうだ。彼は人々の不満を餌にするラストベルトエコノミー(*)が生んだ大統領だ。
(*)ラストベルトエコノミー = 錆びついた工業地帯
全てハイエクの影響だ。ハイエクが市場を解放させた、非常に悪い影響を政策に及ぼしたのだ。
◎フリードリヒ・アウグスト von ハイエク(1899-1992/オーストリア) = 新自由主義の教祖。1974年ノーベル経済賞受賞。
ハイエクは言った「市場が崩壊するならそうさせればいい。市場に任せれば、何れ健全に回復する」と。
しかし、そんな考え方は極めて危険だ。何の実証も保証もない。
ハイエクの思想は、まず、市場に介入する型のいわゆる「大きな政府」のあり方を叩くのに便利だった。
サッチャーはハイエクから強く影響を受けていた。ハンドバッグに『隷従への道』(*)が入っていて、決断に迷った時にハイエクに立ち返っていたようだ。
(*)『隷従への道』=1944年、第2次大戦中のハイエクの著書。社会主義に傾きかけた世界を「隷従への道」と警告した。共産主義、社会主義をファシズム,ナチズムと同根であるとした。経済書でもあるが、政治的には反共の旗印でもあった。
ハイエク思想は米にも伝播した。
米国は常に自由を市場論理と伴に掲げ走り続けてきた国であるが、今、歪が生れている。
ジョージ・セルギン(金融経済学者・歴史学者/米)はハイエク思想の擁護者でもある。
ナショナリズムは、文化間の交流や、人や物の自由な移動を敵視する事につながる。自由への抵抗は経済的文化的に有害で、世界平和の土台を蝕むと、トランプの政策を批判。
セルギンは、一方でピケティのベストセラー『21世紀の資本』(*)を、明確に誤った書だと痛烈に批判。
(*)『21世紀の資本』では、1世紀に亘るデータ調査の結果、 g ＜ r 、つまり経済成長率より資本収益率(増加率)が常に大きいと断じた。結果、富める者は更に富み、貧しい者は貧しいままである。不平等は拡大し続ける。
米国市民はピケティに賛同して言う「米国では1億4,000万人が貧困にあえいでいる。何故か、今の経済システムは人々を救うために存在せず、人々を搾取する強欲のために存在しているからだ。」
しかし、セルギンはそういう声に対して言う、
・・・たとえ不平等が大きくても、貧困層さえある程度豊かで文化的な生活ができ、上の階層へも行けるチャンスがあるようならいいではないか。大きな不平等が存在し社会が機能不全に陥っているからと言って、富を再分配しようとするのは間違っている。
自由な経済活動の末に巨大化した企業ならば、それはそれで良い、と。
彼は寡占化も巨大化も問題にしていない。
それよりも、ただただ自由が大事だという姿勢である、人間個人についても、企業についても。
◆第3章「GAFAという陰の演出家」
揺れる国家に巨大な足音が忍び寄る。自由な競争が資本主義の原動力、その運動の進行にあって、私達を呑み込む陰の演出家が現れた。
スコット・ギャロウェイ(起業家・経営大学院教授/米)、4つのプラットフォーマーGAFA(グーグル,アップル,フェイスブック,アマゾン)を分析している。
・・・グーグルは「神」だ。私達はどのように「神」とコミュニケーションを取るのか？「検索」という名の祈りだ。子供が病気になったら、症状を打ち込んで検索すると処置方法が出てくる。私達は、グーグルをどんな司祭,学者より信じている。
フェイスブックは「愛」だ。人は自らの種の存続のためには、つながりを必要とする。
アマゾンは「消費」の殿堂。安くいい物を買えるという事で一番成功している。
アップルは「セックス」。パートナーの選択肢を拡げるため、原価がたった300＄なのに1300＄も払えるという事を周囲に示して、自分の魅力を実際以上に拡散できる。
こうして、人々の欲望を握ったGAFA。
4つの企業の時価総額はドイツのGDPを越えてしまった。
あまりに強大になった事は、今の経済の重い病を意味する。先進国では、もはや人間性は賛美されない。その代わりに、英雄として賛美されるのはテクノロジーの億万長者達。
過去には諸国で、強大になり過ぎた企業を分割させてきた尊い歴史がある。
しかし、この陰の支配者達は、これ迄の企業に適用されていた基準を逃れる独自のルールを構築した。
今や、解決策はいくつかの小さな企業への分割しかない。
その理由は、資本主義の鍵は「競争」だから。
少数の企業が強大になり過ぎると、もはや競争は不可能。検索もSNSもネット販売も、事実上それぞれ1つの企業しか存在していない。
処方箋は独占禁止のための分割だ。
ただ、4つの企業は既存の国家のスケールを越えているため、収支も経営サイクルも追いかけるのは困難で、分割は不可能だ、と、ジャン・ティロール(経済学者/仏)は指摘している。
競争が必要だが、ライバルになりそうな企業は先に買収されてしまう。例えばインスタグラムとフェイスブックに見られるように。
分割は困難だが、規制、それが今最も重要な課題だ。
(続く)
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