11/17(土)、静岡文化芸術大学で行われたレクチャー＆コンサートに行ってきた。
タイトルは「サロンへようこそ」、副題には「貴族の愛したバロック音楽」とある。
◆第１部
レクチャー 上山典子准教授
◆第2部
コンサート
フラウト・トラヴェルソ 青島由香
ヴィオラ・ダ・ガンバ 櫻井茂
チェンバロ 戸��廣乃
〈プログラム〉
1.J・M・ルクレール ソナタ ニ長調 Op.2/8
2.同 ソナタ
3.A・ロッティ ソナタ
4.J・S・バッハ 《ゴルトベルク変奏曲》より、アリア …チェンバロ独奏
5.G・Ph・テレマン 《音楽の練習帳》より、トリオソナタ ロ短調 TWV42:h2
6.ドゥマシー プレリュード,アレマンデ …ヴィオラ・ダ・ガンバ独奏
7.J・モレル シャコンヌ
アコール J・S・バッハ コラールカンタータ《主よ人の望みの歓びよ》
演奏形態を書いていないものは上記3楽器による三重奏。
会場はいつもの講堂でなく、「自由創造工房」だった。
共に大音量を発する事のできない古楽器であるから、「自由創造工房」に場所を変え、衝立を設置して行った。入場定員100名。
繊細な音を聴くためにはエアコンを利かせる事ができず、温室のように暑かった。
タイトルの通り、しばしの時間この場所に「サロン」を作り出そうという意図であったようだ。
レクチャーの柱は、「バロック」とは何か？、どういう時代だったか？、その音楽の特徴は？
そしてバロック音楽が専ら演奏された場は、「サロン」という特殊な限定された所である事が多かった。では、その「サロン」とは何だったか？
というようにつながっていくのである。
だから、講堂のような、演奏家と聴衆が明確に分離された近代市民社会のコンサート形式の場ではなく、舞台のない平らな床の限られた空間にしたかった、という事だろう(と想像した)。
上山典子先生のレクチャーに従って、以下レポートする。
◇芸術史全般における「バロック」
・「バロック」=大げさな、誇張した、歪んだという否定的な意味合いに由来。
言語はポルトガル語。歪んだ真珠についての形容。つまり、売り物にならないもの。
・18世紀に登場した批判=ルネサンス期ののちの美術や建築は表面的な飾りが多く、歪んだ形が目立つ。過剰な装飾と歪んだ曲線の多用。
・20世紀に入り、ドイツの美術史家等が、ルネサンス期以降の芸術にも独自の価値があると指摘。→「バロック」が否定的意味合いから脱却する契機となった。
・諸芸術の中でバロックの特性が最も色濃く表れたのは美術(彫刻,建築)の分野。
誇張された動き、装飾の多用、強烈な対比(コントラスト)、劇的効果、等。
◇音楽史への転用
・音楽史の領域でこの時代区分名は、1919年、クルト･ザックスの論文「バロック音楽」で初めて使われた。
元々ザックスは美術史で博士号を取った人物、特に彫刻研究。のち音楽史に進出。この論文は雑誌に掲載された。
単行本で「バロック」を音楽史に使ったのは、1934年、ロベルト･ハースが最初。ブルックナーの楽譜のエディションで知られる。「ハース版」や「ノヴァーク版」等あり。最初期からのナチ党員。
・音楽史におけるバロック時代は1600年頃〜1750年以前の約150年間。
時代区分の年代設定には地域差、諸説がある。
開始年1600年についてはほぼ共通理解。
終了年1750年はバッハの没年。1人の人間の死によって時代が変わるというロマン派的解釈。
1720〜30年には次の時代「初期古典派」(昔は「前古典派」と呼んだ)が始まっていたのが実態。
バッハはバロックの最後を形作った作曲家、遅れて現れた大天才という言い方も可。
また、ルイ王朝期のリュリやラモーがこれに当たるが、輝かしき時代との認識から「バロック」という否定的言葉でなく、フランス人は「古典時代」と称している。
・1600年はイタリア(フィレンツェ,ヴェネツィア)でオペラが生れた年。
バロック音楽はイタリアに興り、次第に国際的な拡がりをみた。
・バロック音楽の主要な舞台は王侯貴族達の「宮廷」と、精神生活の中心である「教会」だった。
・この時代の音楽家の身分は、宮廷に雇われる宮廷音楽家、教会に雇われる教会音楽家。また、個別の町で雇われる都市音楽家も登場するようになる。
王権の弱かった都市(ハンブルクやライプツィヒ等)では、経済力を持った一部市民階層が台頭し音楽家を雇う事になった。
身分制度の厳しかった時代、音楽は上記ひと握りの人達のものだった。
当時の一般市民･農民は識字率も極めて低く、生活程度も同様で、音楽を愉しむゆとりはなかった。勿論民謡や民俗音楽は存在したろうが、楽譜にされる事はなく、時と伴に失われていった。
◇バロック音楽の特徴
・ルネサンス=均整と調和。バロック=躍動感、運動性、明確な対照とドラマ、人間の情緒を重視。
人間の情緒,感情といっても、ロマン主義における意味とは違う。
ロマン=人間個々の感情
バロック=グループ化された人間のそれ。
バロック音楽では、1つの曲の情緒は途中で変化したりしない。
「発展」的展開を遂げる事はない。例えば変奏曲形式はどのヴァリエーションも同じ世界の中で「流転」している。
・この時代の共通理解=音楽(声楽にしても器楽についても)の主たる目的は、情緒を生き生きと、激しく表出する事。
◇サロンとは
・「サロン salon」はフランス語で「客間」の意。
・バロック時代のサロンは宮廷や貴族の邸宅が舞台。その後、徐々に宮廷社交から独立し、外部へ発展した。
・ランブイエ侯爵夫人が1610年頃にパリで開いた社交場が、西洋文化史上最初のサロンとされる。
サロン文化の定義は難しい。
凡そ17世紀初め頃〜19世紀初め頃に盛んになった社会文化制度的なもの。極めて限定された建物や空間の中で行われた。
マチネ=昼のサロン。限定された人々対象に静かに上品に行われた。
ソワレ=夕刻のサロン。もう少し対象は拡げられた。舞踏会等、ワイワイガヤガヤした空間。
サロンは週1回くらい、定期的に行われた。暗黙の了解の下で開催され、告知集客等しなかった。
サロンの主は名家の女性がなる事が多かった。親密な雰囲気を重視し、その中では身分の上下を乗り越える付き合いが可能だった。
公文書等記録は残されていない。
次第にサロンは拡大し、19世紀初頭は、ショパンやリストが招かれて評判を呼んだ。
コンサートから
・フラウト･トラヴェルソ
「フラウト」はフルート、「トラヴェルソ」は横型のという意味。
当時一般的に「フルート」というとリコーダーの事を指し、縦型だった。それと区分する為に用いられた呼称。
現代のフルートは1800年頃製作されるようになった。1音1音が均一な音、大きな音が出る。
対して、フラウト･トラヴェルソは全域の音を均一に出せる訳ではない。音量は小さく、輪郭の甘い音。が、優しい音がする。
穴は6つ、キーは1つのみ。材料はツゲ。
・チェンバロ
当日の楽器は浜松に拠点を持つ三創楽器製作所の製品。
古くは中世、小型の箱に弦を張り、弾いたり、叩いたりして楽しんだ。
1440年に書かれた最古の設計図が存在する。長さ1m程の小型。
1490年、現在の形のものが作られるようになった。
黄金期はルイ王朝の頃。フランスで一般キーを黒くしたものが生れた。
バッハののち一時チェンバロは世の中から忘れられてしまう
バッハの名演奏家ワンダ･ランドフスカ(1879-1959)によってチェンバロは復活する。
演奏の工夫；
2段鍵盤の上段は引き出し式になっていて、押し込むと、下段を弾く時に上段弦も一緒に弾く事になり、少し大きな音を出せる。
下段には倍音キーがあり、倍音弦を同時に弾くので、大きな音を出せる。
この3つの方法を一緒にすると、チェンバロとしては一番大きな音を出す事ができる。
・ヴィオラ･ダ･ガンバ
弦数6〜7本。当日のものは7本。フレットあり。
ギターの仲間からの発展と考えられる。
横にして、弓を使わず、ギターのように指で弾いてみせた。
チェロのピンはなく、膝で挟んで演奏する。「ガンバ」=脚。
二胡や胡弓のように、小さな本体でも膝の上に置いて弓で弾くという楽器族の歴史的流れが存在する。
弓は、現代のヴァイオリン,チェロのように上から持つのでなく、下から持つ。
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