7月並の気候となった昨日と違い、今日は雨も降りかなり涼しい。梅雨の雨は鬱陶しいが、涼しいのは有難い。さて、今日はまた演奏会に行った。ラスベート交響楽団の第36回定期演奏会である。
今日のプログラムは次のとおりである。
・チャイコフスキー: ロメオとジュリエット (1869年初稿版)
・グラズノフ: 交響詩「ステンカ・ラージン」
・マーラー: 交響曲第4番
指揮:小久保大輔/ソプラノ:設楽芽佑
会場:ギャラクシティ西新井文化ホール (13:40 開演)
ラスベート交響楽団は、グラズノフの作品をメインにしている東京のアマチュア・オーケストラである。最近の定期演奏会は毎回行っている。前回(2018年1月)の演奏会でグラズノフの交響曲全曲演奏が完了し、次は「第2ステージ」ということで、グラズノフの演奏機会の少ない作品や、グラズノフの周辺作曲家の作品に取り組んでいくという。
西新井に行くのは久しぶりだ。チケット代は990円、開演時刻は13:40と、なんだか中途半端な設定だが、まあそれはどうでもよい。
最初は有名なチャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」である。と思っていたら、全然違うのである。プログラムには「1869年初稿版」と書いてあるが、冒頭からこんなに違うとは思っていなかった。現在演奏されて耳に馴染んでいるのは1880年第3稿。初稿は演奏されることがほとんどないというし、実際これまで聴いたことがない。荘厳なコラール風の音楽で始まる現行版とは違い、甘く優しいメロディーから始まるのである。聴いていて、「プログラムにはロメオとジュリエットと書いてあるが、曲目を変更したのか」と思ってしまったほどだ。そのあとでモンタギュー家とキャピュレト家の諍いの場面になると、聴き慣れた音楽になる。しかし、初稿がもともとそう書かれているのか、今日の演奏がそうなのか、激しすぎる! これは両家の和解など有り得ないような、完全戦闘状態だな。ティンパニの強打で激しさを強調している感じで、よく知っているはずの「ロメオとジュリエット」が、版の違いでこうも新鮮に聞こえるとは、貴重な体験であった。演奏も素晴らしかった。
2曲目は、このオーケストラのメインであるグラズノフだ。ステンカ・ラージンは、ドン=コサックの首領であり、いわば皇帝への反逆者なのだが、ある種の英雄として、今日も語り継がれている人物だ。グラズノフもステンカ・ラージンを題材にした交響詩を書いていて、グラズノフ好きにはお馴染みの作品だが、演奏会で取り上げられる機会はそう多くはないのではないか。生で聴くのは実際初めてだ。「ヴォルガの舟歌」がベースになっていて、グラズノフらしいメロディー満載な作品で、演奏時間約15分の短い作品ながら、十分に楽しめる音楽だ。今日はこれが目的で行ったようなものだが、「ステンカ・ラージン」も素晴らしい演奏で聴けて満足であった。
休憩のあとは、マーラーの4番だ。ここでロシアからウィーンに飛んでしまう。マーラーの交響曲の中では最も演奏時間が短いというが、それでも演奏時間は1時間だ。第4番を生で聴くのはおそらく初めてである。フルートと鈴で軽やかに始まるこの曲は、他のマーラー交響曲とは少し雰囲気が違うのかもしれない。普段マーラーは積極的に聴いているとはいえないので、たまにはマーラーもいいかなという感じで聴いていた。第2楽章はヴァイオリンの独奏が入るが、コンミスの丹羽さんは、合奏用のヴァイオリンと独奏用のヴァイオリンをそれぞれ用意して弾き分けていた。素人耳には差異は分からないが、こだわりがあるのだろう。第3楽章が終わっても、ソプラノの設楽さんが現れないまま第4楽章が始まって、どうするのかと思ったが、第4楽章の開始とともにゆっくりと現れて、そのまま歌い出した。(楽章間で登場すると、拍手が入ってしまうから、それを避けたのかな?) 全体としては悪くない演奏であったが、ちょっとホルンがヒヤヒヤな箇所が目立った。でも最後まで堪能できたのは確かである。
このあと指揮者の小久保さんが挨拶。グラズノフの交響曲が一巡したので、次のステージに入ったという主旨を説明し、グラズノフとほぼ同時代のマーラーを取り上げることで、ロシアとウィーンの違いを体感してもらえればと選んだという。「なぜ急にマーラーを?」の疑問への説明だ。
ソプラノの設楽さんも加わって、アンコール演奏はプッチーニの「ジャンニ・スキッキ」から「私のお父さん」である。「同時代の音楽も、さらにイタリアまで南下すると」とのことである。うっとりするような美しい曲を、うっとりするよう歌とオーケストラで聴かせてくれた。アンコールの前に設楽さんに花束が渡されたが、その花束を抱え、「会場にいるお父さんたちに」と言って歌い始めた。来週の日曜日だったらベスト・タイミングだったのに惜しい。
さらにもう1曲アンコール。「ロメオとジュリエット」といえば、チャイコフスキーのあとプロコフィエフもバレエ音楽を作っている。そしてマーラーの4番は古典回帰が見られる。ということで、プロコフィエフの、その名も「古典交響曲」から第3楽章を演奏した。こじつけっぽいけどアンコール曲の選定にも理由があり、一応説明してくれるのである。
グラズノフの交響曲は一巡したが、このあとも楽しめそうなオーケストラである。次回も行こうと思う。会場に来た時は、傘は要らない程度の小雨だったが、帰る頃には少し雨足が強くなり始めていた。
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