■内田樹「街場の天皇論」2017年10月東洋経済新報社刊
内田樹さんの街場シリーズも、もう20冊弱くらい刊行されている気がするが、
今回は、なんと、ストレートに、天皇論。
63歳の私より高齢の人は、たぶん、天皇について論じることに、密かなタブー
を感じるのではないかと思う。
それは、畏れ多いともちょっと違って、戦後民主主義の中における、天皇を
どう位置付けたらよいかの、葛藤も含まれるのではないか。
平成も29年になって、今上天皇も平成31年3月に、生前退位される。
私は昭和29年生まれなので、天皇といえば、昭和天皇の印象が強いが、
天皇の存在がわかるようになったのが、10歳くらいとすると、生きてきた
年月の半分は、昭和天皇、半分は今上天皇の時代だったように思う。
内田樹さんの著書に随分馴染んでいて、文体論、教育論、身体論、文学論、
贈与論、などには全面的に同意するが、政治的な発言には、ちょっと距離
を置いている。
その内田さんの、本書、天皇論には、ほぼ100%同意した。
惹句を紹介しますね。
“ぼくはいかにして天皇主義者になったのか。
立憲デモクラシーとの共生を考える待望のウチダ流天皇論。”
“【ウチダ流「天皇論」の見立て】
◆天皇の「象徴的行為」とは死者たち、傷ついた人たちと「共苦すること」である。
◆「今」の天皇制システムの存在は政権の暴走を抑止し、国民を統合する貴重な
機能を果たしている。
◆国家には、宗教や文化を歴史的に継承する超越的で霊的な「中心」がある。
日本の場合、それは天皇である。
◆安倍首相が背負っている死者は祖父・岸信介など選択された血縁者のみだが、
今上陛下はすべての死者を背負っている。
◆日本のリベラル・左派勢力は未来=生者を重視するが、過去=死者を軽視するが
ゆえに負け続けている。
◆日本は「天皇制」と「立憲デモクラシー」という対立する二つの統治原理が拮抗
しているがゆえに、「一枚岩」のロシアや中国、二大政党によって頻繁に政権交代
する米仏のような政体にくらべて補正・復元力が強い。”
“2016年の「おことば」から生前退位特例法案までの動きや、これまでの今上天皇
について「死者」をキーワードとしてウチダ流に解釈。”
“今上天皇による「象徴的行為」を、死者たち、傷ついた人たちのかたわらにあること、
つまり「共苦すること(コンパッション)」であると定義。”
“安倍首相が背負っている死者は祖父・岸信介など選択された血縁者のみだが、
今上陛下はすべての死者を背負っていると指摘する(「民の原像」と「死者の国」)。”
“さらに日本のリベラル・左派勢力は生者=現在・未来を重視するが、過去=死者を
軽視するがゆえに負け続けていると喝破。”
“同時に日本は「天皇制」と「立憲デモクラシー」という対立する二つの統治原理が
拮抗しているがゆえに、「一枚岩」のロシアや中国、二大政党によって頻繁に政権
交代する米仏のような政体にくらべて補正・復元力が強いとも論じる。”
“天皇主義者・内田樹による待望の天皇論。”
内田樹さんは、今上天皇に万感の敬意を払っているのですね。
“宮中の祭事について、私たちはほとんど何も知らないけれど、新嘗祭などは、
夕方から深夜まで続き、祭事が終わるころには、宮廷楽師たちも疲弊しているが、
陛下もまた顔面蒼白となって、よろめくように賢所から出てこられるそうである。”
“この国の五穀豊穣を神に感謝する祭事を、誰も見ていないところで、何人かの
人たちが粛々と、骨身を削るようにして行っている。”
“「それがどうした」と思う人もいるだろうけれど、私はこういうものも一種の
「雪かき」仕事なんだろうと思う。”
“その仕事の意味や有用性について誰も保証しれくれない仕事を、それを完遂
しても誰からもねぎらいの言葉がかけられない仕事を黙って行っているから
である。”
韓国には、そのような霊的センターがないので、韓国の人たちは、日本に天皇が
おられることに、うらやましいと、思っているらしいです。
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