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2017年06月15日11:31

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「共謀罪」の成立と課題

 テロ等準備罪、いわゆる「共謀罪」法が参院でも可決・成立した。これに関する与野党のすったもんだについては、ここで触れるつもりはない。私は、世界各国で連日のように起きているテロに対して、日本でもその防止、対策は急務であると考える。したがって、テロの防止や対策に関する治安立法について、その必要性はあると認識している。

 ただ、治安立法を制定する際に、注意しておかなければならないことがある。それは、犯罪として認定する要件がどのようなものであるかという点だ。多くの識者が指摘しているように、この法律はテロなどを目論むとされる「組織犯罪集団」の定義が曖昧であり、そこに捜査当局の恣意に委ねざるを得ないところがある。

 一般的な組織は、それが会社であれ、サークルであれ、集団・メンバーであることについて、定款や認識の共有が図られている。しかしテログループは、いちいちそんな決まりを設けるはずはない。時代劇みたいに誓詞血判状みたいなものを残した日には、それが明るみになったとき、組織ごと根こそぎ壊滅してしまうからだ。

 また、仮にテロを目論む集団がいるとしても、その周辺にそれとは知らず資金活動をする人もいるだろう。オウム事件でも、末端の信徒や職員たちはセミナーやパソコン販売などで利益を得ていた。しかし彼らが中枢幹部の活動を熟知していたわけではない。

 したがって、ひと言で「組織犯罪集団」といっても、それを決めるのは政府・治安当局ということにならざるを得ない。もちろん、その集団、団体を定義づける条文もあるのだけれど、それは「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって,その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう」(第2条1項)というもので、何だかよく分からない。

 いわゆる「共謀罪」に反対する人たちが、民間人や一般市民もその対象となり得ると警鐘を鳴らす要因は、こういうところにある。

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 しかし治安立法は、何も成立したその段階から、反対派が言うような監視社会を招くわけではない。たとえば、戦前の治安維持法も、直ちに「悪法」となったわけではなく、成立後の数年間は、政党政治の全盛期でもあった。

 治安立法の怖いところは、むしろ大規模テロや周辺事態が緊迫したときに、その適用を拡大しようとする動きを招きやすい点だ。しかもそれは、治安当局に限らない。世論が後押しすることだってあり得る。治安維持法についても、社会情勢や政党政治の衰退を受けて、次第に「悪法」化していったという経緯がある。

 今回、国会での法案審議において、見落とされていたことは、この点ではないだろうか。法案を提出した政府・政権も、逆にこれを廃案に追い込もうとした野党も、自分たちが将来、この法律を執行する側になった場合、あるいはこうした治安立法を欠いたままで政権を担当した場合、どういう問題が生じるのか、考えて行動したのだろうか。

 こういう視点は、しばしば野党批判になりがちだけれど、与党側もいつかは下野する可能性がある以上、適用拡大によって監視対象になり得るという想像をはたらかせるべきだ。野党もまた、法律に問題点があるのならば、政権を担当した場合に備えて改正に向けた素案を用意しておくべきだろう。単に政局ごっこのネタにするべきものではない。

 成立した法律は、「実行の着手」を前提としたこれまでの刑事法の枠組みから、踏み込んだものとなっている。他方で、テロなどに対して「国家」が「国民」を守るという姿勢を示したことは、評価することも可能だろう。

 その上で、恣意的な運用をいかに抑制するのか。テロの危機がより顕在化したときの社会の様子に左右されないためにはどうすべきか。課題も多い。有事法制や特定秘密保護法のときのように、一時的な盛り上がりだけで片づけるのではなく、中長期的な見通しも含めて、これらの問題は議論を続けていかなければならない。

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■「共謀罪」法が成立 与党が参院本会議で採決強行
(朝日新聞デジタル - 06月15日 07:55)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=168&from=diary&id=4621307
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