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2017年06月02日13:18

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衆院の区割り変更とその課題

 近年、国政選挙が行われるたびに「一票の格差」をめぐる裁判や是正措置が議論されてきた。これを受けて衆参ともに選挙区(区割り)の変更が審議され、議席の少ない参議院では都道府県単位を最大としてきたこれまでの方針を変更し、人口の少ない隣県同士を単位とする合区も登場している。
 同じく衆議院でも、「一票の格差」是正のため、現行制度においては最大規模となる区割り変更案が審議され、まもなく国会で成立する見込みだ。19都道府県97選挙区にも及ぶ変更は、選挙区全体の三分の一に及ぶ。

 これに関連して、今日の「日経新聞」(2017年6月2日)朝刊29面の「経済教室」に、選挙区成立の歴史的経緯を踏まえた論考が載っている。(筆者は清水唯一朗・慶應義塾大学教授)

 戦前も議会制度が成立してからというもの、選挙区は常に設定されてきた。けれども戦後と大きく異なるのは、戦前は10〜20年で選挙制度そのものが変更されたため、区割りも自動的に変わるということが繰り返されたことだ。選挙制度の変更というのはすなわち、小選挙区制や中選挙区制といったように、選挙区ごとに定員が変わるということである。制度が変更するのだから、選挙区も当然、根本的なところから見直しがなされる。
 これに対して戦後は、1994年を境として中選挙区から小選挙区比例代表並立制への変更しかない。その間、人口の増減を受けて区割りや定員について微調整は繰り返されてきたものの、根本的な変更が行われた数は限られている。

 このように戦前との大きな違いは、すでに上述したように選挙制度そのものの変更が少なかったため、選挙区が固定化しているということにある。選挙区の固定化は、そこから選ばれた議員=地域代表的な性格を帯びやすい。建前としては、国会議員=全体の奉仕者とされているけれど、制度的に地元の利害を重視せざるを得ない構造になっていることも無視できない。

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 現在、国政選挙のたびに「一票の格差」が問題となっているのは、単に人口減少が進んでいるからだけではない。要因のひとつは、人口の流動化が以前よりも進んでいるからである。都市部にどんどんタワーマンションが建設され、そこに多くの人たちが新たに入居するということは、他では当然、人口の流出が起きている。人や世帯の移動が、かつてよりも容易になっているから、数年で各地域の人口増減率が拡大しやすい構造となる。

 ふたつめに、小選挙区制の特徴が挙げられる。ひとつの選挙区で議員一人を選ぶのが小選挙区制である。これに先の人口流動化という現象が加わるとどうなるか。選挙区単位の有権者数も増減が著しくなり、「一票の格差」のための是正を繰り返さなければならなくなる。

 「一票の格差」をめぐっては、選挙のたびに各地で訴訟が起こされ、裁判所の判断が注目され、それを受けて政府や国会で審議が続けられる。限られた時間のなかで、そこに費やされる労力に見合うだけの成果が得られているのか。あるいはそれを「民主主義のコスト」と甘受できるのか。このあたりはよくよく考えなければならない。


 私たちは一般的に、「国会議員が多すぎる」という認識を持ち、区割りとともに行われる定数是正についても、「もっと議員を減らせ」と主張しがちだ。それは、国会議員が見合うだけの活動をしていないという不満が背景にある。
 しかし、議員定数を減らしながら「一票の格差」の是正をし続けようとすると、選挙区を常に微調整していかなければならない。それには選挙区を従来のような自治体単位などではなく、入り組んだものにせざるを得ず、しかも数年ごとに修正を加えなければいけなくなるだろう。
 その都度、選挙区が変更になれば、そこで暮らす有権者も、候補者の顔ぶれも変わってしまう。有権者にとっては、馴染みの薄い候補者に投票しなければならず、候補者にとっては選挙地盤が整わないまま、国政選挙に臨まなければならなくなる。
 あるいはすでに参院で実施されている合区のように、利害の異なる地域で一人の候補者を選ぶ場合、それがいかに僅差であったとしてもマイノリティとなれば、国政にその意思を反映させることはますます難しくなるだろう。

 そもそも国会議員は、国民の代表か、地域の代表かの是非はともかくとして、有権者から選ばれた人たちである。そういう意味では、民主主義の象徴的役割を担っている。しかしそれを私たちは「減らせ」という。国民及び地域の利益を、国政に反映させられるはずの国会議員が減ってしまえば、誰が政府や官僚の仕事をチェックするのか。

 また、人口流動性の高い時代にあって、小選挙区制と「一票の格差」を前提とした区割り、それによって生じる弊害やコストに対して、どういった対策が考えられるのか。単純に定数是正や政治家批判だけではどうにもできない現状についても、私たちは目を向けなければならない。

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■衆院区割り変更案、衆院を通過 来週にも成立見込み
(朝日新聞デジタル - 06月01日 18:03)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=168&from=diary&id=4600537
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