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2016年12月23日00:00

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英国ロイヤルバレエ《フランケンシュタイン》

11/21(月)の深夜に放送されたNHK-BSの「プレミアムシアター」は、英国ロイヤルバレエの新作公演《フランケンシュタイン》だった。
大分遅くなったが、その録画をようやく観る事ができた。

原作は、ご存知の通り、メアリー・シェリー(1797-1851/英)が1818年に匿名で出版した小説である。
1931年アメリカでジェームズ・ホエールによって映画化され、そのヴィジュアルの強烈で偏った個性により、ホラー物として受け取られ今日に至る。
以下、2015年2月にNHK-Eテレの「100分de名著」で採り挙げられた原作解説のレポート。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1939461951&owner_id=3341406

バレエ振付はまだ30歳、英国ロイヤルバレエのダンサーからアーティスト・イン・レジデンスになったリアム・スカーレットが行った。
全3幕の長編を通した振付はこれが初めてだったようだ。
音楽は、アメリカの作曲家ローウェル・リーバーマン(1961- )。
ところどころに新しさもあったが、基本的には伝統的な調性の中で作曲をしてきた人のようだ。過去の作品も伝統的なスタイルに従っている。

収録は、今年2016年5/18、コヴェントガーデン王立歌劇場の公演。

このバレエで強調されるテーマは「叶えられない愛」である。
閉鎖された愛の形が、物語の中ではいくつか現れる。

主人公ヴィクター・フランケンシュタインの母への固着。
医学を目指すヴィクターが大学へ出発しようとする日、妊娠していてお腹の大きな母は急死してしまう。お腹の子供は何とか救われる。それが弟ウィリアムである。
母親は、ヴィクターの出発に際して、自分の肖像画が入ったロケットを渡していた。彼は、様々な場でこのロケットを胸ポケットから出しては悲しみに暮れる。
これが「叶えられない愛」の1番目のケースである。
死人を再生させようと試みる彼の尋常ならざる動機の底には、母への叶えられなかった愛がある。

出発前に結婚を決め、両親にも打ち明けたヴィクターの相手はエリザベスである。
彼女は、幼い時フランケンシュタイン家の前で倒れていた孤児であった。
同家には長く勤めてきた厳格な家政婦頭モリッツがいる。そしてその子ジュスティーヌとヴィクターとエリザベスの3人は、同じような年頃で、友達同士のようにして育ってきた。
ヴィクターとエリザベスが結婚する事を知って、淋しさを感ずるジュスティーヌ。
元々階級が違うし、母モリッツからは、友達のように振る舞う事を厳しく戒められてはいた。この日ジュスティーヌは、自分の分を強く意識せざるを得ない。
これが「叶えられない愛」の2番目である。

ジュスティーヌの思いは、ヴィクターがいない間、弟のウィリアムに向けられた。ウィリアムは、ジュスティーヌを姉のように、年上の恋人のように慕って育つ。
これが3番目。
ウィリアムは、後、ヴィクターが死体から作り出した怪物の恨みによって殺されるのだが、ジュスティーヌはふとした経緯から間違って殺人犯として捕えられ、絞首刑とされてしまう。

最後の4番目は、言う迄もなく怪物のヴィクターへの思いである。
怪物はヴィクターを謂わば創造主として、父として、強く恋い慕うが、ヴィクターの方は、自分が死体から生み出した怪物の醜さ、タブーを犯したおぞましさに、彼の求愛を拒否し、逃げ出してしまう。

このように、このバレエでは「叶えられない愛」が何重にも現れ、それが悲劇を生む土壌となる。
怪物は「叶えられない愛」に対して、恨みを暴力で晴らそうとする。
バレエの中で、暴力がこれ程露わな形で表現されたのを見た事がない。
怪物の傷だらけの身体、そのコスチュームは殆ど裸身に近い。
バレエは様式美の粋の表現芸術であって、バレエから様式を取り去ったら、一体何が残るだろうか。
醜い裸の怪物が続ける殺人の舞いは、無論バレエという形式に拠ってはいるが、凄まじいものである。
彼が手を下したのではないが、ジュスティーヌの絞首刑も、象徴的手法にぼかすのでなく、舞台上でロープが首に巻かれ、吊るし上げられる。
勿論ホラー映画のようなグロテスク味は残さないが、それでも、バレエでここ迄やった事に、私は驚き、感心した。

これ程の表現に、保守的なイギリス人、しかもバレエ観客と言えば中でも最も保守的な人々が多いと思われるが、そんな人達がどんな反応を示すかと興味津々だった。
しかし、幕が下りた後の拍手と歓声は凄いものだった、立ち上がってブラボーを叫ぶ人も多かった。しかも、怪物役を踊ったスティーヴン・マックレーへの喝采が一番大きかった。

後日の媒体ニュースでは賛否両論であったと言うが、それはそうだろう。
新しいものには、受容する人と拒否する人とが必ずいるものだ。


振付 リアム・スカーレット
舞台美術 ジョン・マクファーレン
照明 デヴィッド・フィン
音楽 ローウェル・リーバーマン

指揮 コーエン・ケッセルス
演奏 コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団

出演
ヴィクター・フランケンシュタイン フェデリコ・ボネッリ
エリザベス ラウラ・モレーラ
怪物 スティーヴン・マックレー
ジュスティーヌ・モリッツ ミーガン・グレイス・ヒンキス
ウィリアム ギリェム・カブレラ・エスピナッチ
ヘンリー アレグザンダー・キャンベル



振付の新しさに対し、正直に言って、音楽にはやや生温さを感じた事を、最後に付け加えておく。
 
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