今日は遠路はるばる宇都宮までコンサートを聴きに行った。初めて聴く栃木県交響楽団の、第101回定期演奏会である。(栃響はCDでは1曲だけ聴いている。) ちょっと遠い宇都宮だが、今日のプログラムを見れば、行かない訳にはいくまい。
・伊福部昭:管弦楽のための音詩「寒帯林」
・伊福部昭:舞踊音楽「プロメテの火」〜第3景「火の歓喜」
・伊福部昭:SF交響ファンタジー第1番
・伊福部昭:ピアノとオーケストラのためのリトミカ・オスティナータ
指揮:今井聡/荻町修、ピアノ:山田令子
会場:栃木県総合文化センター (14:00開演)
新宿から湘南新宿ラインの快速で宇都宮まで行く。新宿から1時間半だ。昼前に着いたので昼食とするが、宇都宮といえばやっぱり餃子ということになってしまう。美味しい餃子を食べたあと、ゆっくりと会場に向かう。総合文化センターも初めて行くが、県庁の近くということで道は分かりやすい。ただし、宇都宮駅からは結構歩く。バスも頻繁に出ているが、まだ時間は十分にあるので町を散策しつつ、ゆっくりと歩いて行った。
会場はほぼ満席である。栃木県は、伊福部昭が東京音楽学校の講師となった際に、東京には当時の事情により住めないために住んでいたところで、日光から東武の電車で通っていたのである。栃木県はそんな伊福部昭と縁の深い土地であるから、栃響も伊福部作品をよく取り上げていて、CDも出している。
前半の指揮は今井さんである。伊福部門下の作曲家であり指揮者である。1曲目は「寒帯林」だが、これは満州国を訪れた伊福部がその印象をもとに作ったもので、現地で演奏された記録はあるものの、楽譜の所在は不明で、長らく幻の作品と言われていた。21世紀になって自筆譜が見つかり、ようやく再演されてCDにもなっている。そんな幻の作品を、生で聴けるとは感激である。まさに、そのために宇都宮まで行ったのである。実際に演奏を聴いてみて、やはり行ってよかったと思った。素晴らしい。初期の作品だが、早くも「伊福部節」が展開する作品で、第3楽章にはゴジラの原形(?)のような音型も登場するが、私は第2楽章が大好きである。このメロディーは一度聴いたら忘れないほど印象に残るものだ。「杣の歌」という副題が付いており、山中で植樹や伐採に携わる男たちの歌を描いたものであるという。いや、余計な解説は必要ない。「解説無しには理解し得ぬ様な作品は最早作品ではない」のだから。
続いては、舞踊音楽「プロメテの火」から「火の歓喜」である。どうせならば全曲を通して聴きたいが、時間の制約もあるのだろう。今日は第3景のみである。もともと舞踊音楽であり、視覚(舞踊)を伴って初めて成立するものである。伊福部氏は、映画音楽にしても舞踊音楽にしても、音楽だけを単独で演奏されるのは好まなかったという。しかし、今はあちこちで演奏されているけど。火を得た人間の歓喜が、得意のオスティナートで表現される。前奏を経て、ピアノと管弦楽のための協奏風交響曲の第3楽章に出てくるのとほぼ同じメロディーを執拗に繰り返すだけのようだが、それゆえに魂の奥から揺さぶるような感じで、「プロメテの火」のハイライトの部分を、素晴らしい演奏で聴かせてくれた。
休憩中はロビーにて、展示してある自筆譜や遺品などを眺める。これも、伊福部演奏会の恒例スタイルになっている、CDやグッズの販売も行っていて、いつも見かけるような人もいるし、「そこに並んでいるCD、全部持っていますよ。」 「やっぱり、そうですよね...」 という、いつもの(?)会話も。
休憩のあとは、指揮者は荻町さんが勤める。この方は栃響をいつも振っている指揮者のようだ。後半は「SF交響ファンタジー第1番」で、これも何度聴いたか分からないが、「ゴジラ」をはじめ伊福部映画音楽をつなげて15分ほどの曲にしたもので、何度聴いても、とにかく盛り上がる。でも、会場の客は行儀がよく、みんな静かに聴いている。もちろん、曲が終わると大きな拍手の渦だ。
プログラムの最後は、ピアノの山田令子さんを加えてのリトミカ・オスティナータだ。前述の栃響のCDとは、まさに山田さんと共演のリトミカであり、今日はそれを生で聴ける訳である。山田さんのリトミカは2年前にも生で聴いたが、その時は神懸っていた演奏だった。そして今日もまさにそんな感じである。曲が進むにつれて、山田さんが曲と完全に一体化してトランス状態になっていくのが分かる。曲の終わりでそれが極限に達して、その瞬間に会場から割れんばかりの拍手と歓声が鳴り響く。今日も実に素晴らしいとしかいいようがない演奏だった。演奏後は笑顔になり、挨拶も「主役はオーケストラですから」というような控え目な感じであった。
このあと、まさかのアンコール。何を弾くのかと思ったら、リトミカの最後の部分をもう一度オーケストラとピアノで演奏した。先ほどはだんだんとトランス状態になっていったが、その最後のところから始めると、今度はリラックスした感じだったが、やはり最後はそう終わるのね、ということで、二度も楽しませてくれた。
山田令子さんは東京音大の学生時代にこの曲に出会って伊福部昭に心酔し、作曲科の学生でもないのに、伊福部ゼミに押しかけて加わってしまったという方である。地元栃木県出身でもある。現在は米国を活動の拠点にしているが、伊福部作品を弾くために日本に帰ってくる訳である。来月も山田さんのリトミカを聴く予定で、また楽しみだ。
帰りもJR宇都宮駅まで20分位歩いていき、湘南新宿ラインで新宿まで帰った。帰りは各駅停車で2時間かかったが、その間ずっと今日のコンサートの余韻に浸っていた。
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