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2015年10月03日21:07

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読書日記No.858(旅のラゴス、ふたたび)

■筒井康隆「旅のラゴス」2015年8月30刷新潮文庫

私は、1970年代〜80年代、ツツイスト(筒井康隆の愛読者)だった時期が
あり、当時刊行された筒井康隆の作品をむさぼるように読んだ。

最近、筒井康隆が話題となったのが、文芸誌「新潮」の9月号が、増刷に
なったのは、筒井康隆の「モナドの領域」が掲載されたとのことだった。

出版業界は、構造不況で、特に雑誌の凋落が激しい。

定期雑誌の増刷は、又吉の芥川賞受賞作「花火」が掲載された「文藝春秋」
9月号と時を同じくして、まぁ、慶賀の出来事。

本書の「旅のラゴス」は、筒井の1986年に徳間書店で刊行された作品で、
ツツイストである私は、徳間文庫となった1989年初刷版を所持している。

徳間文庫版は絶版となって、1994年に新潮文庫に所収されたが、それから
20年経た2014年ごろから、本書は、ネットでブームになり、紀伊国屋書店
新宿店に行くと、何箇所かで、平積みされている。

紙の本の衰退をドライブしたのは、ネットであることは確かだが、こんな余得
もあるのが、不思議といえば不思議。

さて、本書だが、あえて、新潮文庫版の惹句ではなく、所持している徳間文庫
版から紹介。

“おれは南を目指して旅をしていた。そこには二千二百年の昔、ご先祖が
それまでの星を捨て、この星に来て生活を始めたポロの盆地がある。”

“ご先祖たちはこの星で高度な文明を維持できず、数年に原始に逆戻りして
しまった。”

“おれは社会を豊かにしたいと思い、旅をつづけた。いろんな超能力者に
出会った。読心力、顔面変形術、念力による壁抜け・・・。物語りを破壊し
つづけた筒井康隆が挑んだ堅牢な物語世界。”

そう、筒井康隆は、SFという手法を借りながら、小説、物語を破壊し続けた
作家である。1970年代〜80年代、私が筒井作品にのめりこんだのは、
そのスラップスティックで、グルーブ感あふれる、疾走する文体だった。

でも、音楽でも絵画でも同じかと思うが、あまりに型を破壊すると、だんだん
ついていけなくなるのですね。

音楽や絵画なら、現代音楽や現代絵画ではなく、少し前の具象的なもの
が一番人気があるように、小説では、堅牢な物語性を求めたくなるのです。

筒井がなぜ、本作品を書こうと思ったのかは知らないが、本書は、神話や
伝説調の、シンプルな物語性に溢れている。

ファンタジーの古典的な気品は、清冽なリリシズム(抒情)を、読むものの
心に深く刻印する。

こんな物語を求めていたのだという、古代からの人間の魂を揺り動かす。

昨年から、ネットで火のついたように口コミが広がり、本作品がまた読み
つがれようとされていることに、人間の物語を求める魂の存在を感じる。

「人間は物語の束」である。

何度も、本日記でリフレインしてきた、物語の真価を、改めて感じたりする♪
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