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2015年08月17日10:56

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「70年談話」に関する私見

 お盆も過ぎて、やや旧聞に属する話題かもしれないけれど、いわゆる「戦後70年談話」についての印象などをここに書き留めておく。

 読み始めて最初に感じたのは、「これは山川教科書の日本史か?」というような近代日本の歩みが描かれていたことである。欧米列強の植民地支配や日露戦争の評価などは、司馬遼太郎のテイストも含まれている。

 そのあと、日本及び日本と戦った国々、戦場となった土地の人々に触れている。特に女性に対する指摘は特徴的だった。そして平和国家として再出発を果たした戦後日本の歩み、それを受け入れた国際社会への感謝に続けて、これからの日本、「世界の中の日本」が自由と平和、民主主義の精神を堅持していくという決意を示す。

 全体として、非常に無難な内容で、熱狂的な支持が得られる性格の談話ではないにしても、批判もしづらいものとなっている。当初、言われていたような「安倍カラー」はかなり抑えられていて、有識者懇談会の見解が強く表に出たものといえよう。

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 もっとも、冒頭の歴史認識については、明治・大正期と昭和初期の日本を対照的に描いていて、そこに連続性を有していたことが分かりにくくなっている。そして近代日本の歩みが、欧米列強による植民地支配からの解放という文脈のなかで捉えられているのも注目される。

 日本近代の歩みをどう評価するかということについては、さまざまな考え方、立場がある。ひとつは、日本の欧米列強と同じく、植民地支配を行っていったというもので、もうひとつが欧米列強からの支配脱却の先鞭をつけたというものである。
 どちらも、日本近代の特徴を示すもので間違いというわけではない。ただ、本質的には日本の富国強兵政策、安全保障政策に基づいた行動であり、植民地支配・アジア解放というのは、その結果もたらされたものといえる。

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 また、談話では過去の具体的な事件や紛争を挙げることを避けている。個々の事件や紛争に対する評価や責任もまた、必ずしも統一されているわけではないから、国内外から個別の出来事に対する反発などを遠ざけようとする意図があったに違いない。そして戦争の犠牲者すべてに哀悼の意をささげている。

 さらに主体的な「謝罪」こそなくても、過去の政権と同様の立場を堅持することを表明しているので、反省の気持ちを踏襲している姿勢は示している。このあたりは非常に政治的な「作文」の妙というところで、認識や方向性の転換をそれとなく図ることにも成功している。

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 同じように、未来志向についても、具体的な政策を語ることはしていない。過去の「経済のブロック化」に対しては自由貿易、「『積極的平和主義』」という言葉には集団的自衛権への意欲が感じられないでもないけれど、これも表立ってそれらの意義を語るロジックにはなっていない。

 文脈としてぼんやりしたところがあるのも、そういう「作文」ゆえのところがあるのだろう。「評価される」よりも「批判されない」ことを前提に構成されたところがある。

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 結果的にこの「70年談話」は、内外からも一定の評価を受ける一方、強い批判はなされなかった。そして、無難過ぎる内容ゆえに「無意味」とされることもなかった。近代日本の歩みについても、多くの人たちがそれなりに受け入れられる最大公約数的な見方をとっているといえよう。
 このことはすなわち、これまで騒がれていた日本の歴史認識について、ひとまず落としどころを探り得たということである。かなり中道に寄った「談話」を閣議決定を経て発表したことは、「右派」とされる政権においても日本政府の立ち位置が極端に右傾化していないことを示すこともできた。

 もちろん、「面白味」という点では、山川の歴史教科書がそうであるように、無難過ぎるきらいがある。歴史を語る場合、さまざまな立場を考慮していくと、どうしても中身がのっぺりとしてしまうのは致し方ない。「政治的に正しい」歴史であればなおさらのことである。
 そういう意味でも、歴史と政治の関係は難しい。それが不可分のものである以上、言及したくなる気持ちは分からなくはない。けれども慎重過ぎれば面白味に欠け、「物語」を強調すれば対立を煽ることになる。

 「無難さ」によって乗り切った「70年談話」だけれども、果たして10年後、30年後はどうなるのか。幼少期も含めて、戦争を知っている世代がさらに減っているであろう未来のなかで、認識・解釈はさらにその時々の世相を反映したものになっていくのかもしれない。

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■安倍首相の戦後70年談話全文
(朝日新聞デジタル - 08月14日 19:56)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=168&from=diary&id=3566834
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