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2014年12月28日13:11

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詩『帰省』


年末の満タンの汽車の中は
タバコとナフタリンと
金属が焼けるような暖房の匂い
腰から下ばかりの景色がきゅうくつで
ひとりひとつの受け持ちバッグに
僕はうんこ座りでつかまっていた

突きだしたアゴを左にずらして
もさもさズボンをとおり抜けたとおい目を
冬には用のない天井の扇風機に向けて
「あとなんじかん?」を連発していると
父の時間のケタがひとつ減り
よし、と肘杖ついてまたアゴをずらす

ウラ拍の十六分音符に
付点八分音符がついて
リピート、八部休符
のくり返しに
向こうの入り口の方から別の音符が入って
後ろに通りすぎていく



父の声が聞こえ、顔を上げると
ルームミラーの顔が左を向けと言っている
窓いっぱいに花火の粒がうつっていて
車は坂道をのろのろと登っているから
おばあちゃんの家に着くのが
「あとなんじかん?」とは訊かない

ガラスに頭をくっつけて
とじた目に点滅する光と
窓ガラスをものともせずに花火太鼓
僕の胸を圧迫してくる



アスファルトの境をこえる微振動
この地方の高速に特有の
ザラザラしたセメント路が
ときおりタイヤをけたたましく鳴らしている

後部座席の父の様子を
ルームミラーで気づかえば
父はアヒルぐちで応えてくる

グループホームのおばあちゃんは
天使のようで白く
ボケてしまったけれど
父の名前を聞いて思い出してくれた
最後に僕が父に手を握るように言うと
母と息子はしばらく両手を握りしめ
「また来っけん」
と別れた



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