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2014年02月20日18:15

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『消ゴム』


僕は頭蓋骨の中に生きていた。
教室を走り回っている少年達は、虫か何かの子供だった。

僕は目蓋が開いていて、そこから、分別のない振る舞いと、少年達の脳ミソとを冷ややかに関連づけていた。


「ケシ貸して」と日焼け顔が言う。
僕は、「ちゃんと返してね」と言うが、(使って減った分もきっちり返してね、減った分を返せないなら新品を買って返してね)
と最後まで流暢に話す自信がないから言わない。
「ごめん、折れた」と“ケシ“を半分返してくる。
「うそぅ、半分の消ゴムはどこ」と訊けば、
「どっか行った」と奴は事件を終わらせる腹。
「もぅ、買ったばかりやったのにぃ」と僕のしかめっ面に、奴は「ごめん」と前に向き直る。
(消ゴムの使い方が下手くそなんよ!馬鹿)
と叫ぶが、頭蓋骨の壁に跳ね返されて奴には声が届かない。

僕は奴の耳を半分ハサミで切り落としたいと思った


女子と話す事はあまり無かったが、後ろの席の子がいつも話しかけてきていた。
勉強の出来ない子だったが、ニコニコしていて悪い気持ちはしなかった。消ゴム事件を知っていた彼女は、恥ずかしい花柄の新しい消ゴムをくれた。僕は嫌なことを思い出して「ありがとう」としか言わなかった。

「ねえねえ、昭くん」後ろから肩を叩くので、振り向くといつもの笑顔がテレビの話をし始める。
「授業中に話しかけんで!」と僕は睨み、
(ちょっと冷たい言い方してごめんね)と頭蓋骨に向かって呟いたが、当然あの子には聞こえるはずもない。

僕はそれから話しかけなかっただけ。あの子は話しかけることが出来なくなっただけ。


大人になって届いた小学校の卒業者名簿に彼女の名前を見つけて懐かしく思った。
しかし、横に記された、(死亡)の文字が僕を愕然とさせた。
僕は彼女に対して虫だったのだ。

僕の最後の言葉は彼女の頭蓋骨に染み付いて二度と消せなくなっていた。





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