静岡文化芸術大学の<西洋美術史>、立入正之先生の下、社会人聴講生で「Mの会」というグループを作っている。
その仲間で、12/15(木)、名古屋へ展覧会を観に行く事となった。愛知県立美術館のポロック展と、ヤマザキマザック美術館の常設展である。
ただ、私は、どうしても中村正義の絵を観てみたいという思いから、午前のポロック展には同行せず、1人、名古屋市美術館に行く事とし、午後のマザック美術館に合流する事とした。
展覧会の正式名称は「日本画壇の風雲児 中村正義〜新たなる全貌」展。会期は、11/1〜12/25。2/19〜4/1には、東京都練馬区美術館に巡回する。
全230点強を揃えた、本格的な回顧展の位置付けとなっている。
凄まじい作品の数々で、これが日本画か？と、まず驚かされる。
とは言っても、画業の最初期は、いわゆる日本画らしい薄塗りの風景画でスタートしていて、変化は1960年から起る。
彼は、1924年、愛知県豊橋市に生まれ、1977年、52歳で肺がんの為没した。
日展に初入選したのは1946年で、弱冠22歳。特選を得たのは、1950年26歳、日展史上最年少だったそうだ。これによって、以後は日展無鑑査となったが、しかし、結核を発症し、1957年迄は制作活動を中断させている。
活動再開後、1960年の新日展では審査員になったにも関わらず、翌年には日展を脱退してしまう。革新への思いが、彼の内から外へマグマの如く吹き出した結果だろう。第2次大戦後、「日本画滅亡論」が登場する日本画壇だが、その動きの中でも、ひときわ目立った活動をした存在である。
モノの形が姿を変え、ある時はなくなり、派手な原色を使用、蛍光塗料を混ぜたものをどろりと零したような痕跡も現れるようになる。
彼は同じようなタイトルで、謂わばシリーズ的な絵を繰り返し描くが、その度に画風は大きく変貌する。
主なところでは「舞妓」「男と女」「顔」そして「うしろの人」、また仏教画の類も点数があるし、風景画でも「太陽と月」等のシリーズがある。
「舞妓」の中から、1958年と1965年のものを比較して観てみよう。(写真1と2)
前者は日本画らしさがまだ強いが、後者はアール・ブリュットやプリミティヴ・アートのような気配が前に出て、人体構成のバランスはすっかり崩れている。
もう1つピックアップするのは、『ピエロ』、1975年の作品だ。(写真3)
よく見ると、ピエロの顔の横に、画家自身の顔がまるで霊のように浮かび上がっている。
この作品も、1970年代に始まった「うしろの人」のシリーズに入れていいだろう。画面中央に描かれる人物の脇や陰に、こうした薄暗いものが寄り添っている。
恐らく、1977年に没する中村は、自分の体調から、不安や恐怖を心の中に鬱積させていったのに違いない。死への暗澹たる想いが、次第に前に出てくる。
1960年代の「男と女」のシリーズは、人間をモノの塊として捉え、分解して捏ね回すような態度があって、それはキュビスム的なモノへの乾いた姿勢だが、「うしろの人」では、そうした直接性から離れ、表現主義へ、死のような描き難いものへ近付いていった。
同じ1970年代は、『観世音菩薩』(1971)等、仏画の範疇に入れられる作品も描き始めるが、これも、「うしろの人」を描く精神と近親的なものと考えてよいのではなかろうか。死への恐怖を、宗教的な世界によって超克しようとしたのだろう。
中村の変貌に継ぐ変貌の全てを表現するのは至難だが、以上をある例として示したつもりだ。
他にも紹介したい作品は多々あるが、今日はここ迄にしておく。
以下に名古屋市美術館のホームページの1サイトをリンクしておくので、興味ある方は観て頂きたい。
そして、止み難い想いがふつふつと沸き上がってきたなら、彼の作品に直接触れてみる事をお奨めしたい。
彼の変化の研究は、まだまだこれからだ。
http://www.art-museum.city.nagoya.jp/tenrankai/2011/nakamura/sakuhin.html午後2:00過ぎ、新栄のヤマザキマザック美術館で、前述のメンバー達と合流。
当日は全11名。ここでは10人以上が団体扱いになる。
イヤホンガイドが無料で貸し出されるのは、ありがたいサービスだ。
そして、1部の作品を除き、写真ok(フラッシュはNGだが)なのも、日本の美術館では稀有な対応だ。
グループリーダーYさんの事前の働きかけで、この日は、我々だけに学芸員 坂上しのぶさんの説明が付いた。
5階の絵画と彫刻作品はロココからエコール・ド・パリ等近現代迄を対象としている。
特に何かの分厚い傾向があるというような性格や癖は見受けられない。
工作機械メーカーが親会社で、その社長個人の好みで巾広く収集された、という感じか。
4階には、エミール・ガレを始めとしたアール・ヌーポーのガラス器や家具等がかなり展示されていて、こちらはなかなか見応えがある。
社長は最近急逝されたとの事だが、美術館はしっかり続けていって欲しい。
その後、伏見に戻り、知る人ぞ知る居酒屋の老舗「大甚」で一杯。私は初めてである。
4:00過ぎに入ったのだが、既に席は満席に近い。
我々は、Yさんの予約で、奥の座敷に通される。
食べたいものは自分で持ってくるというシステム。店員のアイソは悪いが、どれも美味しい。そして安い！
ビールと日本酒で、美術談義に花を咲かせた。
愉しい1日だった。
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