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2011年11月28日22:59

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相曽賢一朗ヴァイオリン・リサイタル2011

11/27(日)、相曽賢一朗のヴァイオリン・リサイタルを、静岡県文化芸術大の講堂で聴く。

相曽のリサイタルは、昨年11/12に続いて2度目。同じ会場だった。
以下は、昨年初めて聴いた感想である。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1620522578&owner_id=3341406

前回のプログラムは、下記の通り。

<前半>
ショスタコーヴィチ(ツィガノフ編) 4つのプレリュードop.34
ベートーヴェン vnソナタ第10番ト長調op.96
<後半>
貴志康一 『月』『龍』
シューマン vnソナタ第1番イ短調op.105

対して、今回は、

<前半>
ベートーヴェン vnソナタ第6番イ長調op.30-1
シューマン vnソナタ第2番ニ短調op.121
<後半>
クライスラー 『ラ・ジターナ』
ラヴェル 『亡き王女のためのパヴァーヌ』
サラサーテ 『アンダルシアのロマンス』
サラサーテ 『ツィゴイネルワイゼン』

こうして見ると、彼の柱としているものは、些かもブレていないのが判る。
彼の音楽に対する知的な取り組み姿勢が、ベートーヴェンとシューマンのソナタを選ばせている。
後半は対照的に、一転してやや泥臭い小曲集。しかし、スペイン風味という筋を通して、イメージがバラけてしまうのを防いでいる。ごちゃまぜになっていないのがいい。


ピアノは、前回がサム・ヘイウッド、今回は、アリスター・ビートソン。
共に英国の若手ピアニストである。相曽が英国王立音楽アカデミーへの留学来、20年近くイギリスに在住して活動を続けているところから、この指名とデュオが成立しているのだろう。
今回が日本での15回目のリサイタルになるが、これ迄のピアニストをピックアップしてみると、上田晴子,カルロ・グアイトーリ,サイモン・クローフォード=フィリップス,ハワード・ムーディー,上尾直毅(*1 cem),永野英樹,小林五月,奥村友美,ネルソン・ゲルナー,金谷峰子(cem),江口玲,谷峰子、と幅広く多彩だ。
これは、彼の交友関係の広さを物語っているだろうし、英国王立音楽アカデミーとバーミンガム音楽院で彼が現在教鞭をとっている事とも関係しているだろう。また、室内楽アンサンブルを積極的に続けている事も寄与しているだろう。

(*1)cem=チェンパロ

例えば、バッハ等バロックプログラムでは、相曽はピアノではなく、チェンパロと組んでいる。同様に、フォルテピアノやパイプオルガンとも。
同じ年のシリーズリサイタルでも、同じピアノであっても、プログラムや作曲家によって異なる演奏家を指名する、そんな拘りも示している。


当夜の山は、当然前半にある。
ベートーヴェンの6番ソナタは、5番『春』,9番『クロイツェル』程には聴く機会がない。
この曲は、ハイリゲンシュタットの遺書が書かれた1802年頃に作曲されているが、暗さや重さ悲惨さは微塵もなく、明るく幸福な気分に満たされている。
殊に、第2楽章のアダージョ・モルト・エスプレッシヴォ/ニ長調のメロディーは単純でのんびりしていて、うっとりと聴く事ができる。

シューマンの2番ソナタは、1番に引き続き、1851年の秋、3ヶ月程の短い期間の中で連続して作られた。
第1番が15分程の短い曲であるのに対し、2番は、その反省も踏まえて、構造も複雑(*2)で、30分を越える大曲に作り上げた。

(*2)献呈者の名のアルファベットをメロディに組み込んだり、次楽章の予告をさせたり、等々。

4つの楽章は大変特徴的で、大きな家の構造を判り易く披歴するが如き能力が演奏家にも要求される。
相曽の知性的な演奏は、実にこれにマッチしている。
また、ノーブルな音質、特に弱音の美しさは、譬えようもない。
ただ、少々音量は小さめで、ダイナミックには欠ける。複雑なリズムが錯綜する部分では、鋭角的なアタックがもっと欲しいと思われたりもしたが、異なる性格の両立は言う程簡単でない。

こうした性格は、後半でも現れていた。
ロマの音楽をもっと泥臭く、もっとねちっこく、と彼にねだるのは、無理な事だ。
『ツィゴイネルワイゼン』だって、音楽の大構造を壊してしまったり、ノーブルさを失ってしまわないように彼は細心の注意を払ってやっている。私は、どちらかと言えば、この節度は好ましいと考える。
サラサーテはロマの音楽に触発され、その香りをクラシックに持ち込んだが、ロマの音楽そのものを書いた訳ではない。


最後になったが、ピアノのアリスター・ビートソンの音楽作りも大変素晴らしいものだった。
大きくはない男が、背中を更に丸めて作り出す音楽は、センシティヴィティに富んで、相曽の音楽と深いところで触れ合っているように思え、そのアンサンブルには溜め息が出た。


この後、相曽のリサイタルは、同じプログラムとピアノで、名古屋宗次ホール(11/28),所沢ミューズ・キューブホール(11/30),東京文化会館小ホール(12/1),埼玉・カトリック大宮教会聖堂(12/3),群馬・高崎シューベルトサロン(12/4)と続く。
お近くにお住まいの方には、是非お聴きになられる事をお奨め致します。
 
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