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2011年11月09日00:10

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ヴェネチア展/江戸東京博物館

11/4(金)の朝を迎えた。
窓のカーテンの隙間からいい陽射しが零れ込んでいる。
今日は少し暑くなる位かと思いつつカーテンを開けると、昨晩距離感が掴めなかったスカイツリーがすぐ向こうに見える。
同じホテルでも廊下の反対側の部屋では見えない景色だろう。いい部屋に泊まれた。
コンビニで買ったパンとコーヒーで朝食とし、9:00過ぎにはホテルを出た。

江戸東京博物館の巨大なエントランスは、ホテルからものの数分。
遠足代わりだろうか、中高生の団体が待機している。
当博物館の性格をよく知らないが、何故ここでヴェネチア展?という思いももたげる。同時に「日光東照宮と将軍社参」なる企画展もやっているようだ。複数フロアーを有し、とにかく大変な会場の広さである。

展覧会の正式名称は「世界遺産ヴェネツィア展〜魅惑の芸術―千年の都」。
ヴェネツィアという、古くから王制を脱皮、市民が統治を始めた特異な都市の歴史と魅力を、幅広い展示物で紹介しようというのが狙いだ。
既に697年には総督(ドージェ)が市民の間から選出され、以来、「自由と独立」を標榜、交易で得た経済力と海軍力を背景にして発展を遂げ、ルネサンスの16世紀には爛熟した文化を花開かせた。この約1000年が、この展覧会の対象期間である。
出展は、その間の美術・工芸品,服飾や風俗に絡む資料等、140点強。

チャプター構成は、下記。

第1章 黄金期
第2章 華麗なる貴族
第3章 美の殿堂

これらを総花的に書き連ねるのは、私の鑑賞趣旨とも異なるので、今日はカルパッチョの絵に絞って話したい。

ヴィットーレ・カルパッチョ(1460/65頃-1525/26頃)は15世紀を代表するヴェネツィア派の画家。生涯については謎が多い。後期はティツィアーノの人気に押された。
彼の絵は、今回、以下の4枚が来ているが、どれも、ヴェネツィア、サン・マルコ広場のコッレール美術館の所蔵品である。

第1章では、
『サン・マルコのライオン』(1516)

第3章では、
『聖母子と洗礼者聖ヨハネ』(1485-90頃)
『総督レオナルド・ロレダンの肖像』(1505-10)・・・これのみ「カルパッチョに帰属」という扱い
『二人の貴婦人』(1490-95)

最後の『二人の貴婦人』の絵が、今展覧会のポスターにも使われて、目玉となっている。

大分前から、私はこの絵に興味を持っていた。mixiでも、高級娼婦のテーマに絡めて書いた事がある。(参http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1560922113&owner_id=3341406)
古くは、この絵は『二人のコルティジャーナ(高級娼婦)』と呼ばれていた事がある。
コルティジャーナは、今の売春婦等とは違い、ルネサンス時代の特有の文化として理解すべきものだ。コルティジャーナについては、以下を参照されたい。(http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1559907951&owner_id=3341406&org_id=1560922113)

この絵の左側中程に脱ぎ置かれた状態で描かれている底の高い靴は、第2章の服飾関連のコーナーに、同類のものが展示されている。
高さは12cm程の木靴(ゾッコリ)と、もう1つは、50cm程もある「カルカニェッティ」とこの展覧会では称されているものだ。
呼び名は書籍によりいろいろだが、後者は、2007年に豊田市美術館で開催された「ヴェネツィア絵画のきらめき」展でも、全く同じ物を私は見ている。(参http://mixi.jp/view_diary.pl?id=393767436&owner_id=3341406)

参照した各文章から判るのは、要約すれば、当時の高級娼婦と貴婦人の間に明確な線引きをするのは困難な時代だった、という事だ、殊に、服飾から2者を弁別するのは。

この展覧会では、この絵に描かれている婦人を高級娼婦としていた以前の考え方は間違いで貴婦人とすべきだという立場をとっているが、単純に盲信していいかどうか、疑問が残るように思う。
貴婦人説の根拠を、展覧会は2つに求めている。
1つ目は、この絵に、切り取られた上部があり(現在は米ポール・ゲッティ美術館が所蔵している『ラグーナ(潟)での狩猟』→合成による合体写真参照)、2人の婦人は、その猟に出ている夫を待つ妻達だと判ったというものである。
2つ目は、絵に描かれている動植物の寓意が、夫婦愛,純愛,忠節,生殖,多産等を示すものだ、という事から来ている。

根拠そのものを否定するつもりはないが、それでも、猟に出ている男達とこの絵の婦人達が夫婦であると断ずるのには問題が残る。女は、男達が呼んだ高級娼婦かもしれない。アレゴリーも、イロニーとして扱われる事もあるだろう。
絵の場は、邸宅のロッジかテラス、またはバルコニーだと思われる。つまり室内に続く場所であって、道路の汚れ等を避けるという高脚靴の一方の必要性がない場所である。
また、そうした場所において、夫婦関係にある者が、わざわざ高脚靴を履いて目立とうとする事もあり得ないのではないか。どちらかと言えば、外から呼ばれた高級娼婦であるとした方が、靴の説明はつき易かろう。

それから、彼女達の表情についてはどうだろう。
猟に出た夫の帰りを待ち侘びる妻の表情というよりも、呼び出された高級娼婦が、猟からなかなか戻らない男達を、退屈しながら、あるいは呆れながら待っている、とした方がフィットするのではなかろうか。

その辺りのヒントが、手前で首だけ出す犬が足で押さえている手紙にありそうだが、書かれている文字で読み取れるのは「ヴェネト人ヴィットーレ・カルパッチョ」という作者名のみ、もう1行は擦れて判読不可なのだそうだ。

この絵は、板に直接テンペラと油絵具で描かれているが、そのサイドを見ると、板に蝶番が付けられていた跡がある。展覧会は、それが確認できる展示をしていて、実によく考えられている。これは、この絵の真実の姿を想像する上では大事な物証だ。
つまり、この絵には、更に失われた左半分があって(そこには、手前の犬の身体も勿論描かれていただろう)、それら2枚が扉絵を形作っていたとする説の根拠となるものである。
そう考えれば、この絵の左辺の唐突な切れ方も説明がつく。上で考察した女達他、謎とされてきた諸問題も、恐らくそれが見つかった時に、初めて明らかになるのだろう。


カルパッチョの1枚の絵に特定して話したが、展覧会は全体として大変充実したものだった。
ピエトロ・ロンギ(1701-85)の『香水売り』(1750-52)他の絵も、服飾や生活関連の展示と併せて観れば、当時の貴族達の生活風俗を知る上で興味深いものだ。
この後、名古屋、仙台、松山、京都、広島と、来年の11月迄かけて巡回するそうで、是非ご覧になる事をお奨めします。


さて、次は上野。
 
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