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2011年11月01日21:33

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映画『ちいさな哲学者たち』/J=P・ポッツィ

10/31(月)、浜松シネマe-raで『ちいさな哲学者たち』を観る。

子供と哲学とは一体どいう関係だろう?
日本という環境で考えると、それは全く縁のないものに感じられてしまう。
果たしてそうだろうか?

1960年代、コロンビア大学のマシュー・リップマン教授によってこの教育テーマは考察され発表された。
その考えの下で、フランスのある幼稚園において世界初の試みが始まった。
幼稚園の後ろにはIFUM(教育養成大学院)と哲学教授J=C・ペティエの連携と提案、出版社のサポート等々がある。
この映画は、そのトライアルの2年間を収めたドキュメンタリー映画である。

出演するのは、若い幼稚園の先生パスカリーヌ・ドリアニと、3歳から5歳に到る間の園児達、そして若干の親達。

パスカリーヌは、子供達を輪に座らせ、真ん中に置いたロウソクに火を付けて哲学の時間を始める。子供達に、この時間を一定の形式で継続されるものとして意識(反応)させ、また集中させる為だ。
映画では毎日やっているように見えるが、実際は月に2〜3回のペースで進めたらしい。

この幼稚園の所在は、最初のテロップで紹介されるが、「パリのZEP(教育優先地域)にある・・・」と表現される。
初めて聞く単語で、私は、つい”特別に進んだ教育が与えられる先進的優遇的特区”かと思い込んだが、調べると、それは全く違っていた。
ZEPという語は、貧困他の原因により学内暴力や学業不振等、教育上の問題が頻発する地域に付けられるのだそうだ。zone d’education prioritaireの略で、政府からの補助金や特別な支援プログラムが実施される、という。

この映画に出演する園児達が、黒白黄色褐色等、いろんな人種が入り混じっているのは、そうした土地柄なのだった。これは、今やフランスに限らず、欧米始め全世界にまたがる問題となっているだろう。

それでも、園児達の笑顔は屈託がなく、実に表情豊かだ。
与えられるテーマは、”愛とは”、”死とは”、”自由とは”・・・と、様々である。
彼等の答えは、一聴するに独創的だが、よくよく考えると真実を言い当てているケースがままある。
“違い”のテーマでは、会話は、友達と恋人の違い、男女の違い、人種の違い、貧富の違い、等に派生していく。
彼等の発言は現代社会を反映せざるを得ない。

しかし、この時間で求められるのは、普遍的な真理ではない。
深く物事を考える力、考えた事を言葉にする力、会話する力の醸成であろう。
会話とは、人の話を聴く事でもあり、意見の違う他者の存在を認める事であり、社会性の基本となるものだ。それこそが世界の正しい認知にも繋がる。
これらの対極が、いじめも含む暴力であり、諦めであるだろう、それらの先には戦争があるだろう。

3〜5歳の園児達の反応は様々である。成長の差が甚だしい形で出てしまう事もある。発言しない子、寝てしまう子・・・、言葉に変換する能力や抽象的な思考力にも差が出てしまうのはいたしかたない。
意見の異なる子を叩いてしまう男の子もいて、パスカリーヌ先生は、誠心誠意、言葉を尽くし、それが解決にならない事を男の子に話して聴かせる。

異文化の接触があちこちで繰り返されざるを得ない時代に、これら園児達の可能性には大きなものがある。

園児達は、夕方、迎えに来た両親と家路につく。
その帰りがけ、また家の食卓で、彼等は親達と会話する。大人とは、子供とは、家族とは・・・。
幼い子供達の言葉が、家庭にもコミュニケーションを復活させる様を、カメラは捉えて感動的だ。
この教育トライアルに大きな実りのある事を祈りたい。
映画は、教育のあり方,未来、子供の可能性に、大きな示唆を与えてくれる。
日本の多くの人にも観てもらいたい。


製作 シルヴィ・オパン
監督 ジャン=ピエール・ポッツィ,ピエール・バルジェ
撮影監督 ピエール・バルジェ

出演 パスカリーヌ・ドリアニ先生と園児達アズアウ,ヤニス,アブデラメーヌ,イネス,ルイーズ,キリア,ナオミ,シャナ,他

2010年フランス
 
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