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2009年12月20日23:54

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豊田市美術館「近代の東アジアイメージ」展

思い立って、愛知県豊田市美術館で開催されている「近代の東アジアイメージ」展に行ってきた。
ここ浜松から、東名高速道を飛ばして約1時間半。
これ迄も何度かここには来ている。派手さはないが、いい美術館だ。特に20世紀の現代美術に積極的な姿勢を持っている。

何故急に行く事になったかと言えば、まず、この展覧会のヴィジュアルイメージのメインとしてピックアップされた作品に心惹かれたというのが大きい。
島成園の『上海にて』がそれである。島成園という画家については殆ど何も知らない。
他にも安井曾太郎や藤島武二等の作品もあるとホームページ(http://www.museum.toyota.aichi.jp/exhibition/2009/special/east_asia.html)には書かれている。

行ってみたいと思って会期を当たると、10/10(土)から、何と12/27(日)迄である。これはすぐにスケジュールを調整しないといけない、と美術館のカレンダーを見ると、いい日がある。つまり今日12/20(日)だが、14:00から学芸員の作品解説がある由。自分のスケジュールと計っても、この日しかない、という決論にすぐさま到った。

大変にいい展覧会だった。個別作家の我が嗜好もさる事ながら、テーマが旗幟鮮明だ。
サブタイトルに「日本の近代美術はどうアジアを描いてきたか」とある。
学芸員の話と図録からすると、東アジアは同じ漢字文化圏にあって、古来、近い文化を形成してきた。日本は特にそれらから多くを教わり、吸収して育てられてきた。それが、明治維新以降”脱亜論”的な考えが急速に蔓延し、欧米列強の帝国主義に倣い、東アジア諸国を支配、その盟主たろうと変化を来たした。そういう西洋とアジアとの間の日本独特で偏頗なバランス感の中で、近代の日本人芸術家達は、どう東アジアを見、どう影響されたのか。
そこには、政治的なスタンスとは別に、人間としての芸術家個々に「激しい内的な葛藤と軋轢」が「等しく抱え込」まれている。

中国,朝鮮関連というと、戦時下、主たる潮流となってしまった戦争画というジャンルがあるが、それにのみ意識を狭く固定するのでなく、上記テーマの下、日本画,西洋画,写真、広く当たって展覧会を構成している。
結果、107の作家、259点が集められ、以下のコンテキストに位置付けられた。

第1章 明治期段階〜文人画・歴史画から現実へ
第2章 エキゾチシズムの諸相
第3章 アジアの女性
第4章 東アジアで開花した「日本美術」
第5章 カメラアイを通して
第6章 場末への眼差し
第7章 内的荒野・大地からの幻影
第8章 現代にて

ピックアップされた画家の名をはめると、以下のようになる。ただチャプターの切り口が複層しているので、単純に仕訳けられない部分はある。人物によっては、複数章にまたがる場合も出てきていた。

第1章 高橋由一,黒田清輝,山本芳翠 他
第2章 三岸好太郎,鶴田吾郎,杉山寧,前田青邨,浅井閑右衛門 他
第3章 藤島武二,島成園 他
第4章 鹿子木孟郎,岸田劉生,満谷国四郎,安井曾太郎,梅原龍三郎,竹内栖鳳,橋本関雪 他
第5章 木村伊兵衛,恩地孝四郎,速水御舟 他
第6章 藤田嗣治,猪熊弦一郎,高井貞二,伊谷賢蔵,畦地梅太郎 他
第7章 鳥海青児,清水登之,川崎小虎,山崎隆 他
第8章 会田誠 他

凄い名前が並んでいるが、勿論名を挙げただけではない。実際これだけのものをよく集めたものだと思う。今回の企画は豊田市美術館の全くオリジナルであり、キュレーターの熱い思いが顕れている。
西洋へのロマンティックな眼差しをただ隣国に当て代えただけというものから、キュビズムやアブストラクトを感じさせるもの迄、大変幅広い。会田誠は、しかし、中でちょっと浮足立って見えたが。(笑)

ここで個々の章や人物それぞれに触れる訳にいかないが、当初の個人的目的である、島成園には焦点を当てておかなければならない。

島成園(しま せいえん)、女流画家である。1892(明治25)生まれ、1970(昭和45)没。大正時代から昭和初期を中心に活躍した由。
パンフレットの紹介文、
・・・20歳で文展に初入選以来、大阪で活動した女流画家で、強烈な自意識を見せる特異な作品で知られています。ここでは、芸妓らしき中国女性を装飾性豊かに描いています。曲線が切り合いながら様々な色の地帯をフレーム内に組成することで、深く秘めた情念をたたえています。夫の転勤先の上海と(実家のある)大阪を行き来しての制作を続けましたが、この後、急速に定型的表現となっていくのでした。・・・
京都の上村松園、東京の池田蕉園、と伴に、「三都三園」と並び称された事もあったとの事。地元である大阪市立美術館には所蔵品の展示があるらしいが、東ではあまり知られていないと思う。

作品の写真データはネット上で見つけられない為、添付できない。興味のある方は、上で紹介したHPを覗いてみて頂きたい。
→<12/23改訂>コメント4に従い、写真1として掲載。

紹介文でもでもあるように、殆どが曲線による構成となっているが、ただ髪のほつれだけが、真っ直ぐに垂れ、画面を2分割する程の強さを持っている。
襟や青の垂れ幕の唐刺繍の精緻さは、1点たりとも気を抜かないという精神の強靭を物語っている。
上海芸妓の一生に想いを馳せ、自分を重ねているのだろう。見上げる隈取りの視線に憎しみのようなものさえ感じてしまうのは、私だけだろうか。

もう1枚の写真を見ると、その想いを更に強くする。これは今展に来てはいないが、データがあったので貼り付けておく。
自画像との説もあるが、本人の顔にはこのような跡(痕)はなかった。タイトルは『無題』とそっけないのに、迫る鬼気には身の毛のよだつ感がある。
性は異なるが、甲斐庄楠音をつい想像してしまう。


ps.
学芸員氏のトークは14:00〜15:00の筈だったが、終わって時計を見ると15:50。
今企画に対する当館の思いと同様、大変熱の入ったものだった。
名前は聞かなかったが、お礼を言いたい。
 
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