■身心快楽(63)
●６月２６日(金) 26:19 続き
午前２時をまわる。
めずらしいことではない。
最近は、帰ってきてしばらく
寝ることがある。
前より、疲れやすくなっている
ということか。
きょう巡回で、北非常階段をあがり
１１階の屋上に出る扉を開けた。
扉の前は、エレベーター機械室で
そこに置いてある椅子を持ち出して
腰かけ、屋上から非常階段に吹いてくる風を
感じながら、しばらく休憩した。
今月の仕事はもう全部かたづけてしまって、
日々の巡回と全館点灯試験くらいしか、
やることがない。
２９日の管理費等の引落としがあると
また、仕訳と勘定元帳のしめ、未収金督促、会計報告、など
一連の作業が始まる。
しかし、それまでは
ちょっと退屈する。
●「富士日記」昭和四十六年 拾遺��
▼八月五日(木) 風つよし 嵐気味
朝から荒れ模様。風が止むと、すぐ陽が射す。
朝ごはんのとき、西の原っぱに虹が低くゆるゆるとたつ。ごはんを食べながら
見ている。
「この景色、あすこからここまで全部あたしのものだぞ」と言うと、
主人は知らん顔をしていた。また始まったというような顔。
昼 ふかしパン、スープ。
二時過ぎ、ますます風雨烈しくなったころ、中央公論の近藤さん「富士」の
ゲラ刷を持って、庭先に現れる。「近藤さんがいらっしゃるときは、
いつも雨風の日ねえ」。
ウイスキーとビール、ソーセージ、じゃがいもフライ、かにとキャベツサラダ、
山芋天ぷら、冷しハムとクラッカー。
后六時すぎ、大岡さんをよびに行く。門へ上ると、東の空に虹がかかっていた。
今日は湖上祭の日。
八時過ぎ、奥様が迎えにみえる。「雨が降っていても花火が上がってましたよ」と
いわれた。そうめんを頂く。
皆で飲んでいると、テラスに出し忘れていたパラソルが風でとんで、
溶岩の角にあたって裂けた。九時ごろ大岡夫妻帰る。
近藤さんと主人は十二時過ぎまで飲む。私は十時ごろ、近藤さんの寝室の
支度をして、一寸自分の部屋に入ったら、そのまま、洋服をきたまま眠って
しまった。
夜中、嵐となる。
●「この景色、あすこからここまで全部あたしのものだぞ」と、たわぶれに
言ってみた。また、始まったような顔をされたが、事実、いつも言うことだから
しょうがないか・・。そう思っていたら、来客があった。大岡さんもよんだ。
結局、主人はお昼の二時から、夜中十二時過ぎまで飲んでいて、私は服を着たまま
眠ってしまった。
▼八月六日(金) 雨、時々晴、風つよし
七時、眼がさめる。今日も荒れ気味のお天気。
八時朝食 ごはん、かにたま、鮭と玉ねぎ酢油漬、味噌汁、サラダ。
今朝も、ごはんを食べていると、西の原っぱは虹色に染まっている。
九時、近藤さんを送って駅へ。嵐気味なのに、駅には登山客が溢れている。
昼 そうめん、ごま入りのおつゆ、ちくわと紫蘇の葉の梅干和え。
夜 ごはん(桜めし)、みょうが汁、丸焼茄子、あとは、昨日と朝の残りもの。
タマは暗くなって大急ぎで家に入って来る。また、もぐらをくわえている。
もぐらをとってくる時間は大体きまっているようだ。六時五十分位に
必ず外へ出たがって、七時半ごろ、くわえて戻って来る。
今日のは今までで一番丈夫。ぜんまい仕掛のように動きまわる。
タマは背中をひっかいて、皮を一筋細長くむいてしまう。その皮がぶら下がって、
しっぽが二本あるようにみえる。それでももぐらは動いている。
二時間ばかり遊んで死んでしまうと、タマはゆっくりと晩ごはんを食べ
牛乳を飲んで、私の部屋へ入りこんでねてしまった。
夜、月も星も出ているのに、風が吹いて雨がひとしきり降る。
そのあと、風だけ残って晴れる。西の空に入道雲のような白いもくもくした
雲が、昼間のようにたっている。
●「夏休み」の最後の日記である。
このあと、まだ数日、山荘にいたのかもしれない。しかし「富士日記」に
その記載はない。
ところで「夏休み」は長かったのか、短かかったのか。
山荘にいて、「日記」をつけているときは短かかった・・、
が、あとで読み返し、書き写しているときは、あるいは長かったかも・・・。
書いているとき、なんとなく感じるものがあったとしても、それは
ただ感じるだけのこと。
しかし、先のことがいよいよ現実として迫ってきているとき、
それは感じるだけではすまない。
「夏休み」のあと、約三ヶ月後の「山行き」のとき、それがどんなことなのか
ようやく姿を現してくる。
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