■身心快楽(60)
●６月２４日(水) 朝くもり、昼から晴れ
きょうも朝、出がけに傘をもって行った。
昼、すぐに暑くなった。
夏の日のようだ。
帰り、置き傘がもう一本あるので、
もってきた傘をまた、もって帰った。
妙法寺駅から横尾山を見ると
緑はいよいよ濃くなり緑黒色の山になって
力強く、どっしりと落ち着いてきた。
●「富士日記」昭和四十六年 拾遺��
▼七月二十三日(金) くもり時々雨
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一日中、風が吹いて秋のようだった。夕方四時ごろ、大岡さん、一人で
歩いてこられる。六時ごろ車で送る。くもっていたのに、急にすばらしい夕焼けが
ひろがった。そのあと、夜になって風雨はげしくなる。
今日は河口湖へ買出し。 ・・・
▼七月二十四日(土) くもり時々雨
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風つよし。時折り雨がぱらつく。秋のはじめのような荒れ気味の一日。
管理所で。牛乳二本七十円、玉ねぎ六十円、長ねぎ一把六十円、
トマト三個百八十円、桃三個二百十円。ソーセージ五十円。
午後、二人とも昼寝。するとタマも昼寝している。
▼七月二十五日(日) 快晴、時々曇
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管理所で。桃三個百五十円、牛乳二本七十円。
夕方、大岡夫人、沢山のきゅうりと、卵とエクレアを持ってきて下さる。
来客のおみやげをわけて下さる。
明日、私だけ赤坂へ帰るので、大岡さんに「美術全集のどの巻とどの巻を持って
きたらいいか」訊きに行く。大岡さんなは美術全集のほか「野間さんの
『青年の環』の終りの二巻も持ってきてよ。旦那が読んだのは赤線が入って
いるから具合がいいから」とおっしゃる。
そしてパジャマのまま、ふらふらと外に出てきて石垣のところでしゃがむ。
「今日はきゅうりばっかり貰って、きりぎりすだあ」と、草をさわりながら
おっしゃる。眼が赤い。お客が沢山あって、よっぽどくたびれたらしい。
▼七月二十六日(月) くもり
朝四時、私だけ東京へ。暗い道にタマと主人、見送っている。六時少し前、
赤坂に着く。
買出し。宮川のうなぎ、鯛ずし、佃煮、のり、あんみつなど。
二時少し前、花子を乗せて山へ向う。四時、山へ戻る。
主人はレコードをかけていた。
大岡さんへ美術全集と「青年の環」と、買出しの品を届ける。 ・・・
大岡さんもパジャマでレコードをきいていた。
▼七月二十七日(火) くもり時々晴
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夜中、猫が外で鳴いているので眼がさめる。野良猫がきたらしい。
小窓から見ると満天に星が出ている。滴るような星。
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午前十時、五合目まで行く。三人とも。
五合目近くまで濃霧。急に青空が見えて、烈しい陽が射してくる。
五合目は快晴。駐車場は満車。手足にしみ入るような強い陽射し。日陰に入ると
身ぶるいするほど涼しい。
夜遅く「庭でタマと野良猫がけんかをしているから」と、主人は私を起こす。
花子と二人で提灯をつけて探しにいく。野良猫はすぐ逃げて、タマは暗い草むらに
うずくまっていた。
●あれから五日がたった。あわせて八日。花子さんが来た。来客がなければ
のんびりする。
▼七月二十八日(水) 晴ときどき曇
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十時半ごろ、花子を連れて河口湖のプールにはじめて行く。プール入場料三百円。
四十分泳いで帰る。
村役場に固定資産税一年分納めに行く。誰もいない。やっと男の人が一人
出てくる。食事時間だったらしい。しばらくすると奥の方の部屋から
サンダルの音をさせて、アイシャドウ、つけまつげの女事務員が出てくる。
やかんと湯呑とバナナの皮一杯をお盆にのせて小使室の方へ行く。
大きな声で「私の城下町ィ」と歌いながら。女事務員が出てきた奥の方の
部屋からも「私の城下町ィ」と歌っているのが聞こえてくる。
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夜 ハンバーグステーキ、ごはん、スイカモモ、ぶどう。
庭の大根を抜いて大根おろしにしたら、とても辛かったが、却っておいしかった。
主人、おいしがって汗を出す。
▼七月二十九日(木) 快晴
六時に起きて草刈り。
九時半、花子とプールへ行き、一時間半泳ぐ。
午後、吉田へ買出し。
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陽に焼けて肩と顔がほてる。泳いだあとは、一日中、ねるまで体がのびきって
気持がいい。猫になったみたいだ。
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▼七月三十日(金) 晴のち曇
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花子、東京へ帰るので駅まで送る。送りがてら、筑摩書房の斎藤さんを迎えに
行く。花子の電車は一時間後の発車なので、花子を駅に置き、斎藤さんを乗せて
山に戻る。二時ごろまで校正にかかる。
終わって昼食。
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今日の午後、自衛隊機と全日空機が空中衝突。自衛隊はパラシュートで降りる。
あとは全部死ぬ。快晴の真昼に衝突したらしい。夜もずっとそのニュース。
夜、ねるとき「黒い雨」をよむ。
▼七月三十一日(土) 快晴
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管理所で。牛乳二本七十円、桃三個百八十円、キャベツ四十円、きゅうり
二本三十円。
いま、下ではキャベツはトラクターで圧しつぶしている位豊作なのに、
上では四十円だ。
しんしんと暑い。
午後一時、読売新聞社のインタビューの人来る。
ビール、コンビーフ、じゅがいもフライ、山芋天ぷら、を出す。
一時間ほどで終わる。読売の人を大岡さんへ送りがてら、主人も乗って行く。
大岡さんのところへ上がってしまい(私も)ビールを御馳走になる。
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大岡さんの原稿を持って帰る読売の人を河口湖駅まで送る。
夜、星空。
門のすすきに穂が出た。夏はおしまいだ。
▼八月一日(日) 快晴
くらくらするほどの青空。今日は日曜日だから山を下りない。
一日、草を刈る。
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隣りから大根三本頂く。畑の春菊は摘むと新しいのがまた出る、と
教わる。
「黒い雨」を読む。
●また、あれから五日が過ぎた。八月になった。
花子さんは、ちょっといて帰った。もうススキに穂が出た。
山の夏はすぐ終わる。また「夏休み」も。
もう、あと五日。
今年も『黒い雨』を読む。
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