■身心快楽(58)
●６月２２日(月) 曇り、のち雨
きょう天気は梅雨らしくなって、
夜、土砂降りになり
いま、雨は降り続いてる。
雨の日が好きなわけではないけれど
梅雨の日が爽やかだというのは、やっぱりヘンだ。
いつも、だいたい六月の十日ごろから約一ヶ月
降ったりやんだりして、カッと陽の射す日があるかと思えば
また降って、自分の誕生日ごろまで雨の日が続く。
傘をさして、早く梅雨が明けないかナーと思いながら
出勤する。
雨を楽しむなんて余裕はないけれど、
梅雨にはやはり雨が必要なんだ、と思ったりする。
●「富士日記」昭和四十六年 拾遺��
「夏休み」というと、長いようで短い感じが残っている。
１ヶ月以上もたっぷり遊んでも、休みが終り近くなってくると
子供心に日の過ぎ去る早さというか、はかなさというか、
たっぷり遊んだ充実感より、喪失感を感じた。
この年、１２回目の「山行き」は七月二十日から八月六日までの１８日。
百合子さんの「夏休み」は長かったのか、短かかったのか。
▼七月二十日(火) 晴
朝五時半、赤坂を出る。昨夜、梅崎さんの七回忌の会(中野のほととぎすで
あった)で、帰りは十一時過ぎだった。家のあとかたづけと車に荷物を
のせたりして、遅くに眠った。今日は后一時ごろ、筑摩書房の斎藤さんと
高橋さんが山の方へみえることになっている。主人に起こされて出かける。
着いてすぐ朝食。そのあと来客用の食事の支度をしてしまう。一休みすると
眠ってしまいそうなので。
十二時半過ぎ、急ぎ河口湖駅へ下って迎える。そのあと夜八時半まで、
食事をしたりビールを飲んだりした。高橋さんはギターをひいて歌を歌った。
そのあと主人も歌った。皆、歌を歌った。
八時ごろから私は眠くなり、外へ出て門まで上って、上の道を走る。
タマもついてきて一緒に走る。タマは皆が歌いはじめたころから庭へ出て、
真暗な草の茂みにじいっとうずくまっていた。動物というのは、何て
ひとりぼっちのものなんだろう。草の間から、赤く光る金色の眼が二つ、
私が近づくのをじいっと視ていた。
●「夏休み」初日はこんな風で、またしても「男って、いいきなもんねー」という
声が聞こえてきそうである。
眠気覚ましに上の道を走ろうとして外に出て、真暗な草の茂みにうずくまっている
タマを発見する。
で、思う「動物というのは、何て一人ぼっちのものなんだろう」と。
猫のタマに目が行くのは、どうしてだろう。なんとなく百合子さんは自分自身と
猫を重ねあわせている・・。そんなように見えてくる。
▼七月二十一日(水) 晴
朝食が終わったとき、東京から戸祭さん[大工さん]ともう一人の大工さんが
やって来る。談合坂をうっかり通りこしてしまったら、どこにも食堂がなかった
という。
大工さんへ朝ごはん。味噌汁、ごはん、目玉焼とハム二切れ、粕漬まな鰹、
きゅうりととり肉のあんかけ。
主人の二階寝室にタタミを入れる。
今日十時半に出版クラブに泊っている高橋さんと斎藤さんを迎えに行き
方々を案内する約束だったが、大工さんの食事の世話があって行かれなく
なったので断りにいく。
昼 かにコロッケ、ごはん、はまぐり汁、トマト、煮豆、キャベツ酢漬。
テラスの根太がぬけそうなところにも木を入れてもらう。三時過ぎ仕事は終る。
タマ、夜十時過ぎまで外に出ている。もぐらの子供をくわえてきて、
私にみせる。
主人、終日眠る。
●大工さんが来たら、朝飯も、昼飯も作らねばならぬようになった。
筑摩書房の高橋さんや斎藤さんを富士五湖めぐりや風穴や白糸の滝に車で
案内するのも、その断りをするのも百合子さんの仕事で、大工さんに根太の
補修の指示をするのも百合子さんだ。
泰淳は終日ねてた。
▼七月二十二日(木) くもり、夜に雨
涼しい。時々晴れては、くもる。
タマ、今日ももぐらの子供をくわえて来る。しばらく遊んでいて、死ぬと放り出して
外へ出ていった。土に埋める。
吉田へ買出しに。
牛乳二本九十円、パン、ミルク缶百五十円。
ぶどう三房二百五十円、スイカモモ一箱二百円。豆腐二丁九十円、大根、ピーマン、
ニラ。
ハチミツ五百円、ワカ末四百九十円、ハンドクリームニ百五十円、洗剤百七十円
(薬屋)。
缶ビール一箱、びんビール一箱、サントリー角瓶、醤油一本、五千四百四十円。
男物パンツ二枚六百円、女物二枚四百六十円、ズロース一枚二百八十円(洋品店)。
洋品店では景品に花火のセット一箱をくれる。
夜になり、風が吹き、雨降り出す。涼しい。
タマは虫下しがきいてきたのか、昏々と眠りだす。
●富士吉田まで買出しに行って、都合５軒の店屋に寄った。
書き写しでは、途中これまで、買出しの品々や食事の献立・料理名をしばらく
省略して書き写してきた。が、今回また、久々にそのまま全部書き写した。
(薬屋)。(洋品店)。のように、買った店屋の種類が入っていないでも、百合子さんは
店屋毎に買ったものを改行して書き、その店屋の最後の品物のあとに「。」を
ふっている。
だから、最初の店は牛乳や乳製品を扱っている店、次は八百屋、
薬屋、酒屋、洋品店に行ったのだ。順序もこの順に行ったのかもしれない。
まぁ、いずれにしろ実際やってみると買物も時間がかかり、品選びもせねばならず、
日常の買出し・買物は「ショッピング」とはまたちがう「仕事」なのだ。
少し長逗留するとなれば、パンツだってズロースだって必要で、着たものは
洗わねばならず洗剤も必要で、ワカ末だって必要だ。今日は肉や魚はないけれど、
買った野菜は料理もするし、酒は飲む前に、門から庭を下って台所まで運ばねば
ならない。
●まあ、そんなことで、「夏休み」の３日が過ぎた。
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