内田樹「街場の成熟論」2023年9月文藝春秋刊
久しぶりに、内田樹さんの本を手に取って読了しました。
内田さんは、折に触れて、成熟について語り、世の中に、成熟した大人の頭数を増やし
たいと言われます。
全体の7%くらいが「まっとうな大人」であれば、世の中はなんとか回り、10%を
超えたら「かなりよい世の中」になり、大人の比率が15%に達したら、たいへん住み
やすい世の中になると。
そのためには、子どもたちに、「大人になりたい」という成熟への意欲をもってもらわ
なければならないですが、それが減退しているのはないかと。
それは、子どもたちが「楽しそうに暮らしている大人」を間近に見る機会が少なく
なっているのではないか、という課題に直面するということでした。
「大人の仕事を機嫌良くする」ためには、そんな問題意識で、あちこちに書かれた文章
を編んだのが、本書でした。
遅ればせながら、惹句を紹介します。
”ウクライナ戦争、陰謀論、ポスト真実の時代、公共財の私物化、バワークラシー、
ハラスメント……
非常識で、冷笑的な人々が増えたこの国で――”
”・権力者支配(パワークラシー)の国で上昇志向に駆られた人の振る舞い
・なぜ複雑な話は「複雑なまま」扱ったほうがよいのか
・人からの採点を待つ「被査定マインド」をやめる
・ものごとは原理よりも「程度の問題」で考える
・子どもたちを歓待し、承認し、祝福する大切さ……etc.”
”親切、品位、勇気……失われゆく徳目を明らかにし、
〈大人の頭数を増やす〉道しるべがここに”
目次と小見出しの抜粋も紹介します。
1.ウクライナ危機後の世界
・ウクライナ危機と反抗
・ロシアと日本、衰運のパターン
・複雑な話は複雑なまま扱うことについて
2.沈みゆく社会
・安倍元首相銃撃の報に接して
・新聞メディアの凋落
・70年後のテレビ
3.成熟について
・病と癒しの物語「鬼滅の刃」の構造的分析
・勇気について
・親切について
4.ジェンダーをめぐる諸相
・男たちよ
・女性議員はなぜ少ないのか
・師弟関係とハラスメント
5.語り継ぐべきこと
・半藤一利「語り継ぐこの国のかたち」解説
・品がよいと悪いとは
・小田嶋隆さんの思い出
内田樹さんの言説に、すべて首肯いているわけではありませんが、しばしば、
他の誰もが言わない、ハッとするようなことを言われて、それが、ストンと腑に落ちる
機会が続くと、また読んでみたいと思って、これまでよく読んできました。
本書でも、それは裏切られませんでした。
へぇー、なるほどね、と。
まぁ、それが、馴染みの著者の本を読み進め、読書をドライブする、キーポイント
のひとつなんですね。
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