■柳田由紀子「宿無し弘文 スティーブ・ジョブズの禅僧」2020年4月集英社インターナショナル刊
アメリカの世界的なコンピュータ企業、アップル、マイクロソフト、グーグルの
創業経営者、スティーブ・ジョブス、ビル・ゲイツ、エリック・シュミットがいずれも
1955年生まれと知って、驚いたことがある。
1954年生まれの私と同世代ではないかと。
いずれも、傑出した経営者だが、たまたま、アメリカにおけるコンピュータ産業の
勃興期に巡り合わせ、時を味方につけたと言えるかもしれないが。
その中でも、��1のカリスマといえば、スティーブ・ジョブズに手を挙げる人が多い
のではないか。
スティーブ・ジョブズは、癌のため2011年10月5日に亡くなって、もうすぐ没後
10年となる。葬儀が、禅宗の様式だったことを、知らない日本人も多い。
そのスティーブ・ジョブズに大きな影響を与えた日本人の禅宗の僧侶がいたことを
知らなかったので、本書を手に取ってみたのだった。
遅ればせながら、惹句を紹介。
“「ハングリーであれ、愚直であれ」――この言葉は禅の教えだった!”
“ジョブズが「終生の師」と仰いだ日本人がいた！
アップル社のiPhoneやiPodなどの革新的製品の設計思想にヒントを与えた
禅僧・乙川弘文。しかし、彼の人生はいくつもの「謎」に包まれている。”
“「日本曹洞宗の明日を担う」とまで期待された若き僧侶は、なぜ日本を捨て、
アメリカに渡ったのか? ある人は「あんなに優れた禅僧はいない」と激賞するが、「
女にだらしない、酒浸りの男だった」と批判する人もいる──彼はいったい何者
だったのか?”
“そして、スイス山奥での突然の死──その真相は?
在米ジャーナリストの著者が７年間にわたる執念の取材の末に突き止めた真実。
その骨太なノンフィクションに一橋大学名誉教授・中谷巌氏も絶賛！”
目次と小見出しの抜粋も紹介。
第一章 激賞と酷評と
・賢者であり未熟な少年
・釈迦をひたむきに学び、真実に生きる
第二章 生い立ちから渡米まで
・泥地に咲く蓮華
・あんなに純粋な禅坊主
第三章 アメリカで、ジョブズと出逢う
・スティーブは、僕の家で日本に出逢った
・何かといえば「レッツ・ゴー・コウブン！」
第四章 追うジョブズ、追われる弘文
・スティーブの細部に禅を見た
・禅から学んだ引き算的思考
第五章 ジョブズと離れヨーロッパへ
・この世にいることに敬意を抱くこと
・エンジョイ禅！
第六章 最後の日々
・禅の老師はいつだってミステリー
・できることなら父とよびたくない
第七章 乙川弘文の地獄と手放しの禅
・願って地獄に堕ちる
・手放しの禅
著者は、アメリカ在住のジャーナリストで、偶々、「ゼン・オブ・スティーブ・
ジョブズ」の日本語訳を依頼されたことから、乙川弘文のことを知り、7年間、
関係者30人にヒアリングした内容で、本書は構成されている。
著者が、乙川弘文とスティーブ・ジョッブズに関わりのある人びとに、アメリカや
日本や、ヨーロッパで会い、乙川弘文とは何者なのかを、追求していく筆致は、
ミステリさながらで、大変、感動した。
なにより、かけた年月と労力は莫大で、著者の粘り、熱意は、さながら、乙川弘文
が導いているようにも思われた。
凄い本に出会ってしまった。大満足です。
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