12/11(水)、名古屋市立美術館で開催中のカラヴァッジョ展を観る。
・会期 2019年10/26〜12/15
白内障手術後初めての展覧会鑑賞である。
展覧会場は照明が暗いので不安もあったが、絵の隅々迄よく見えて幸いだった。
本展企画の最大の特徴は、首都圏がなく、札幌、名古屋、大阪の開催となった事だ。
日頃の展覧会鑑賞機会は、人口に比し、東京都下が突出して高いのは事実だ。"事業"として考えると、その東京を外して行うというのはどういう訳だろうかと思うのだが、本当のところは分からないものの、地方に住む者としては結構である。
会場の混み方も、都下の美術館は並大抵でない。特に著名作家の展覧会ともなると、正直に言って、あれは芸術を鑑賞する環境ではない。
今回の名古屋市美術館展は、勿論人は多かったものの、芋を洗うような状況ではないし、観客の歩き方迄指示する警備員もいない、観たい絵の前ではゆっくり時間をかける事もできた。
動員は、開幕1ヶ月強の11/29時点で5万人突破とのニュースが出ていた。今週末迄でどんな結果になるだろうか。
先般の上野の森のフェルメール展の実績は知らないが、2008年東京都美術館でのフェルメール展は93万人が入場したというのを聞いた事がある。が、こういう指標ばかり挙げて展覧会を話題にするのは芳しい事ではない。
もう1つの特徴は、札幌、名古屋、大阪の各会場でのみ展示する作品があるという事だ。これも、私は先例を知らない。
札幌展(北海道立近代美術館’19.8/10〜10/14)では《病めるバッカス》(ローマ･ボルゲーゼ美術館)、名古屋展では《ゴリアテの首を持つダビデ》(同)大阪展(あべのハルカス美術館’19.12/26〜’20.2/16)では当初《ホロフェルネスの首を斬るユディト》(ローマ･バルベリーニ宮国立古典美術館)が計画されていたが結局これは来日せず、《執筆するヒエロニムス》(ボルゲーゼ)が展示された。《病めるバッカス》が観たければ、札幌に行くしかないという訳だ。実際そういうマニアもいた筈だ。
また、日本初公開となる作品も2点あった。《リュート弾き》(個人蔵)と前掲の《ゴリアテの首を持つダビデ》がそれである。
名古屋会場ではたまたまこの2点共に観る事ができた。
私はフェルメール同様、カラヴァッジョには特別の愛着を持ってきたので、なるべく多くの作品を観たいと思っている。日記でも、鑑賞記録他、繰り返し彼等について書いてきた。
両画家は共に作品数が極く少ないので、来日のチャンスにはその全部を観たいと考えてきた。
私のカラヴァッジョ歴を、あくまで自身のために簡単にまとめておくと、…
最初に記しておくべきは、幸せな2009年のローマ･フィレンツェ旅行。
1.《キリストの埋葬》ヴァチカン美術館
2.《果物籠を持つ少年》ボルゲーゼ美術館
3.《ゴリアテの首を持つダビデ》同
4.《蛇の聖母》同
5.《パウロの回心》同…但しサンタ･マリア･デル･ポポロ聖堂より貸出
6.《ホロフェルネスの首を斬るユディト》同…バルベリーニ宮国立古典美術館より貸出
7.《マルタの騎士》同
8.《ナルキッソス》バルベリーニ宮国立古典美術館
9.《執筆する聖ヒエロニムス》同…ボルゲーゼより貸出
10.《聖フランチェスコ》同
11.《メドゥーサの首》ウフィッツィ美術館
12.《眠るクピド》パラティーナ美術館
2010年ボルゲーゼ美術館展/東京都美術館
13.《洗礼者ヨハネ》ボルゲーゼ美術館
2011年ウィーン旅行
14.《ゴリアテの首を持つダビデ》美術史美術館…ボルゲーゼ所蔵品とは異なるバージョン
15.《ロザリオの聖母》同
2016年カラヴァッジョ展/国立西洋美術館
16.《女占い師》ローマ･カピトリーノ絵画館
17.《トカゲに噛まれる少年》フィレンツェ･ロベルト･ロンギ美術史財団
・ 《ナルキッソス》ローマ･バルベリーニ国立古典美術館…2009年ローマ･フィレンツェ旅行時に観たものと同
・ 《果物籠を持つ少年》ボルゲーゼ美術館…同上
18.《バッカス》ウフィッツィ美術館
19.《マッフェオ･バルベリーニの肖像》個人蔵
20.《エマオの晩餐》ミラノ･ブレラ絵画館
21.《メドゥーサの首》個人蔵…2009年ローマ･フィレンツェ旅行時に観たものとは異なるバージョン
22.《洗礼ヨハネ》ローマ･コルシーニ宮古典美術館…2010年ボルゲーゼ美術館展で観たものとは異なるバージョン
23.《法悦のマグダラのマリア》個人蔵
24.《エッケ･ホモ》ジェノヴァ･ストラーダ･ヌオーヴォ美術館ビアンコ宮
ここ迄で、重複を除き通算24点を鑑賞している。「帰属」扱いの作品はピックアップしていない。
加えて、下が今回の名古屋展展示作品になる。
25.《リュート弾き》個人蔵
・ 《メドゥーサの首》個人蔵…2016年西洋美術館で観たものと同
・ 《法悦のマグダラのマリア》個人蔵…同上
26.《聖アガピトゥスの殉教》ローマ･パレストリーナ司教区博物館
27.《聖セバスティアヌス》個人蔵
28.《歯を抜く人》パラティーナ美術館
・ 《洗礼者ヨハネ》ボルゲーゼ美術館…2010年ボルゲーゼ美術館展で観たものと同
・ 《ゴリアテの首を持つダビデ》ボルゲーゼ美術館…2009年ローマ･フィレンツェ旅行時に観たものと同
以上、名古屋展で展示されたカラヴァッジョ作品は8点。
札幌と大阪だけで展示される作品が他に2点あるから、今回の来日展総数は10点という事になる。
また、本展には「カラヴァッジョ(？)」と表記しているものが2点ある。「帰属」とは意味が違うと思うが、(？)の定義はよく分からない。何れにしても、ここではそれらを数に加えていない。
私は、通算28点のカラヴァッジョ作品を観てきた事になる。
カラヴァッジョ作品の総数は「50点余り」「60点程」「60点強」等、一定しないが、38歳10ヶ月で死んだ彼が制作のために使った年月は15年程しかない。
その中で28点に接する事ができたのは、自分で言うのもナンだが、なかなかのものである。
どだい聖堂の壁に備え付けられた大作は、外して日本に持ってくる事はできない。
28点の内12点を2009年のローマ･フィレンツェ旅行で観る事ができたのは、私にとって実に幸せな経験となったのである。
今回の展覧会での展示が日本初公開となっているボルゲーゼ美術館の《ゴリアテの首を持つダビデ》も、私はその旅で既に観ている。
本展の展示構成を確認しておこう。
�� 「1600年前後のローマにおけるカラヴァッジョと同時代の画家たち」
…カラヴァッジョの初期作品2点と、彼も一目置いていた大物アンニバーレ･カラッチや、犬猿の仲で「バリオーネ裁判」で名が知られるジョヴァンニ･バリオーネ、反対に仲が好かったオラツィオ･ジェンティレスキ等の作品、合計15点。
�� 「カラヴァッジョと17世紀のナポリ画壇」
…カラヴァッジョは1606年5月、地元の顔役ラヌッチョ･トマッソーニを殺害しローマから逃亡する。庇護者の下で匿われたのち、同年9月にはナポリに移動。同地はスペイン副王の統治下にあった。
ナポリの貴族等はカラヴァッジョを待って早速注文を出し、画家達はカラヴァッジョ様式を進んで吸収した。
こうした画家達は「カラヴァッジェスキ」と呼ばれた。
この章では、カラヴァッジョ逃亡中の作品4点と、バッティステッロ･カラッチョロやスペイン人画家ジュゼペ･デ･リベーラ、オラツィオの娘アルテミジア･ジェンティレスキ等の作品、合計13点を展示。
�� 「カラヴァッジョ様式の拡がり」
…カラヴァッジョの晩年の作品2点と、彼の死後、カラヴァッジョ様式を広めた画家等の作品、合計13点。
会場には、友人、愛人、敵対者、庇護者等、カラヴァッジョの交流関係がいろんな角度で示されて、興味深い。
(続く)
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