池井戸潤が書いた小説『下町ロケット』を読む。
2011年上半期の直木賞受賞作である。
2010年11月初版第1刷の小学館単行本で、手許にあるのは、その第3刷、2011年7月日付。
受賞後の増刷タイミングの本だから、私も受賞を聞いて買ったのか、またはもう少し後に、古本を買ったのか…。
何れにしても、しばらく書棚に寝かせてあったようだが、読み始めたら、もうやめられなくなって、約400ページのぶ厚さにも関わらず、忽ちのうちに読み終えてしまった。
物語の持つ不思議な力が私をぐいぐい引っ張ったのだ。
タイトルからある程度想像できるかもしれない。
下町の中小企業の作ったデバイスが、日本の大企業の粋たるロケットに使われる迄、それにまつわる人間達の挫折と成功の物語である。
今更粗筋でもない。
要素だけ単語でピックアップすると・・・。
特許に関わる法廷闘争。
大企業と中小企業の体質の違い。大企業の中小企業いじめ。
研究者と経営者の違い。転身の訳。
中小企業経営の苦心惨憺の日々。銀行と中小企業。風評被害と中小企業。
中小企業が何を活かすか、選択の難しさ。目先の利益とその先にあるもの。
モノ作り、卓越した技術や品質。中小企業が賭けた品質と社員達のプライド。
そして夢の実現。人の成長と一体感。
こう要素を書き出すと、まるで経営のハウツー本のようで嫌になる。
キーモチーフは、ある中小企業が持つ技術が、大企業に負けないもので、特許も持つ。そして、この技術のよるちっぽけなデバイスがなくては、新しいロケットが飛ばないという事実。
しかし、だからといって、それだけで勝てる訳ではない。
大企業は、あらゆる手を駆使して、中小企業を潰しにかかる。または乗っ取り。特許使用の為の様々な戦略・・・。手立てはいくらでもある。
この技術を巡って、諸々の事件が起き、関わる人達が、対抗しぶつかり合い、悩み離反し、そして、ある事をきっかけにして、集中と一体化を得ていく。
じたばたする人間像のそのじたばた具合が、生々しく手に取るように見えて、読んでいる方も、手に汗を握る。
必要もないのに、私だったらどうするか、そんな事もつい考えてしまう。会社時代の自分のあれこれの出来事や上司部下との人間関係等を想い出しもする。私だったらどう選択しただろうか、間違えたかもしれない、人はついてきただろうか、等とも。
これが大企業の持つ技術や特許だったら、トラブルが起きたとしても、そんなに生々しい事はなかったろう。人の問題というより、経営や投資、リスク管理という抽象的な言葉のフィールドに落とされ、何の魅力もなくなってしまう。
下町の工場の話しだからこそ、逆境で人が生きる。
人が生きると、物語に力が湧く。
ストーリーテリングの魅力は、実にここにある。
元々は、週刊ポスト2008年4/18号から2009年5/22号迄連載されたものに、大幅な加筆訂正を加えた。
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