7/15(日)、浜松市美術館で開催されている「アール・ブリュット展〜生(き)の芸術」を観に行く。
同日に小説家の田口ランディの講演があるというので、是非共この日にと決めた次第。
「アール・ブリュット」の定義は、常葉美術館で行われた「現代フランス・ナイーブ派絵画展」についての日記の後段で、悩みつつ少しばかり触れた。
<参>
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1856681171&owner_id=3341406
今、アール・ブリュットの概念の起ったヨーロッパでは、日本のそれに大きな注目が集まっているらしい。
提唱者ジャン・デュビュッフェの蒐集した作品を基に「アール・ブリュット・コレクション」が形成され、スイス・ローザンヌに美術館ができた。これが、いわば、アール・ブリュットの世界の総本山である。
ここで、2008年に「Japon」展が開催され、日本人作家12人の作品を展示、一気に関心が高まった。
この関心が、2010〜11年、パリ市立アル・サン・ピエール美術館で開かれた「アール・ブリュット・ジャポネ」展に結び付いた。
ここでは、日本人作家63人の作品約800点が並べられた。
これに続き、今度はヨーロッパ諸国を巡回する展覧会「アール・ブリュット from Japan」展が開催される運びとなり、オランダ,ベルギー,英,オーストリア,デンマーク,独,伊の7ヶ国、それぞれを約4ヶ月かけ、延べ3年半から4年で1周する計画ができた。
今年2012年4/17には、オランダ・ドルハウス美術館でオープニングセレモニーが持たれ、作家7人含む総勢80人が日本から参加。
作品は、46人の約850点が展示されているとの事だ。
浜松市美術館の展覧会は、このヨーロッパ巡回展出品作家中心に30人367点が集められている。
それらは、美術史や画壇は勿論、既成アート概念等を軽々と越え、自由で力強い表現に満ち溢れている。
「精神障害者の」という限定をせず、ただただ芸術として、人間表現として、それらは、素晴らしい力を持っている。
表現という事が、人間の奥底で発露するもので、人が生きる事と極めて密接に繋がっているという事が判る。
この事から、逆に、病気治療の一環として、また共同生活を営む為の一手法として、表現活動が活かされている。そういう順番で考えた方が判り易い。
私は、当日12:30少し前に会場に入り、全体を見渡して、13:15頃、2階講座室前に並んだ。
講演会には事前申し込みは不要、整理券も配らないとの事だったが、定員80名とも書かれているので、早目に並んだのだ。多分前から10番以内だった。
単なる美術愛好者は田口ランディの名は知らないかもしれないが、小説家としての知名度は第一級だ。どの位の人が、ここ浜松で聴きに来るのか、興味もあった。
結果は、補助席も目いっぱい並べ、約130人が彼女の講演を熱心に聴いた。
アール・ブリュットと田口ランディ自身の関係、そこから話は始められた。皆さんもまずはそこに興味があるだろう、と笑って言いながら。
田口の作品は2000年のデビュー作『コンセント』から何冊かまとめて読んだが、しかし、私も、この関係については全く知識がなかった。
彼女は自称「アール・ブリュット応援団」だそうで、自宅のある神奈川県湯河原では、発達障害の子供の会に創造的な参画をしている。
3年か4年程前、NHKの「新日曜美術館」では、日本で初めてのアール・ブリュット展のナビゲーター役をやった由。
その後、前掲のスイス・ローザンヌ展にもパリ展にも行ったとの事。
アール・ブリュットの作品を見ると、表現の自由に触れ、元気になるのだそうだ。
彼女は、小説やエッセイ等、言葉を扱う事を生業としているが、言葉というのは表現手段として大変な制約があり、未熟な手段だとの自覚を持っている。
共通の理解をする上では、大変便利なものだが、実は本質とは懸け離れている事が多い。本質を言い表す為に、どんどん言葉を重ねていくが、結局、言葉は本質には辿り着けない。
理解し合っていると思っていても、実は大きな相違があったりする。それを意識せず、便利さにかまけ、コミュニケーションできたと勘違いしていると、表現者としては、どんどん衰弱していく。
特に彼女は、簡単に言葉にはできない「心のもやもや」を大概においてテーマにしている訳で、表現という点では日々悩みが多い、と。
そんな時、アール・ブリュットの作品を見ると、それらは、概念や意味(つまり言葉を媒介にするもの)とは無関係にでき上がっていて、心から湧き上がる本質そのものだと驚く。
彼等は「言葉が不自由という特技を持っている」のだ、という真実に最近辿り着いた、との事だ。
田口ランディは1959年生まれ、実物は小さくて地味なおばさんである。何でもない黒いワンピースにアイボリーのカーディガン、長いネックレスだけが少し光っている。
しかし、話し出すと、声はだんだん元気になり、1歩1歩と前に出る。1時間半、椅子に坐る事なく、動き回りながら話し続けた。
自分の仕事や能力には何ともネガティブなのだが、アール・ブリュットの事になると、本当に活き活きとしてきて、説得力がある。
以下は、当日心に迫ったほんの1部分の乱暴な意訳である。
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大ウソはともかく「小ウソ」は、人間意識せずに毎日つき続けて生きている事が多い。
例えば、小さな迎合、小さな我慢、小さな協調、No！とはっきり言う程でもない事に遭遇し、人は「小ウソ」をつき続ける。
こればかりしていると、私とは誰か、それがだんだん見えなくなる。
結果、人は私を表現できなくなってしまう。
毎日のウォーキング等、筋力の維持の重要性が説かれるように、「心の筋力」というものも大事。
「小ウソ」ばかりついて、自分を主張しないでいると、「心の筋力」はどんどん衰える。
1歩前へ出る事。自分の真実を押し出してみる事。
それが表現というもの。
1歩前へ出る事を繰り返していると、いつか出会いが生まれ、出来事と遭遇する、それが人を変える。
それをせず、毎日半歩下がってばかりいると、誰とも出会いは起らず、何の出来事にも遭わず、自分をすっかり忘れ、筋力は完全に衰弱してしまう。
そんな事を、アール・ブリュットの作家達と会ったり、彼等の純粋な表現と出会うと気付かされるのだ。
云々。
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講演会の後、持っていった『コンセント』幻冬舎発行の単行本にサインを貰った。
2000年の版ですか！と、本人、驚いていた。
写真は、同展チラシと、本日7/16付の地元紙朝刊記事。
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