7/4(水)、静岡文化芸術大学<西洋美術史��>の社会人聴講、13回目の授業である。
18世紀はロココの時代。
「ロココ」の語源は仏語の「ロカイユ」とも言われている。小石,砂利,貝殻等の意。
バロックもロココも皮肉を込めた表現として出発しており、決して褒めた言い方ではなかった。
即ち、古代ギリシアに理想を置いたルネサンスを”真円の真珠”とするなら、
・バロック＝歪んだ真珠
・ロココ＝貝殻
という連続的ダウングレードの謂いだったのだ。
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バロックのダイナミックや力強さの表現は消え、ロココでは優美,享楽性,自由奔放といったものに姿を換える。このロココ趣味は、啓蒙思想と伴に、ヨーロッパ中に蔓延する。
この転換点は、太陽王ルイ14世(1638-1715)の死である。
絶対主義の専制君主、その絶頂であった彼の時代は、統治の厳しい時代でもあって、大変な締め付けが存在した。
その死により、精神的締め付けは解かれ、現生の快楽に流れる風潮となった。
ベルサイユはパリの田舎にあって、そこにルイ14世は世界一の宮殿を建て、政治機能,首都機能を移転せしめ、貴族達もこぞってベルサイユに住む事になった。
ところが、彼の死後、貴族達は、息苦しいベルサイユを離れ、またぞろ生活をパリに戻す事になる。
当時のパリは汚く猥雑な都だが、しかし、快楽に満ち溢れていた。
ロココ主義は、ヴァトーに始まる。
ジャン=アントワーヌ・ヴァトー(1684-1721)
《シテール島への巡礼》1717、ルーヴル
流れるような筆使いと華麗な色彩(ルネサンスのような精緻さは彼の求めた世界ではない)で、華麗に官能的に貴族生活を描いた。
シテール島とは、ヴィーナスが支配する愛の島。ここで繰り広げられる男女の恋物語の序章。
ヴァトーは、この絵をアカデミー正会員となる為のサロンに出した。
それ迄のアカデミーの絵画部門は、「歴史」「宗教」「肖像」しかなかった。ヴァトーの絵はそのどれにも属さない。「雅宴画」という部門が新設される事になる。
「雅宴」、字の通り、雅な宴、である。
《ジェルサンの看板》1720、ベルリン、シャルロッテンブルク城
絵を売る店が描かれている。絵を売買する店はこの当時初めて生まれた。
パリに戻った貴族が、新しい家を飾る為に絵を買った、または古い家の絵を売った。
パリには貴族達が改めて多くの金を落とした。
フランソワ・ブーシェ(1703-70)
ヴァトーの確立した恋愛風俗画を、一層軽薄に流した。
《昼食》1739、ルーヴル
ブーシェ自身と家族と思われる昼食図。ブルジョアの生活風景。
《ディアナの水浴》1742、ルーヴル
曲線による女性の肢体、ロココ好みの女性像。
《ヘラクレスとオンファレ》1730年代始め、モスクワ、プーシキン美術館
神々と言いつつ、実際は官能的な男女の性愛の場。
《雅な羊飼い》1739、パリ国立古文書館
田舎にいる貴族の図。確かに近くには羊がまどろむが、牧畜にはおよそ適さないきらびやかな衣装の男女。背景に牧歌劇の流行。非現実的な空想の田舎生活。
《ポンパドゥール夫人》1756、ミュンヘン、アルテピナコテーク (→写真1)
ポンパドゥール夫人は、ルイ15世の公的愛人。美、才能、権力を握った女性。
持っている本は、知性を持った女性である事の象徴。
ロココは、ポンパドゥール夫人の宮廷サロン文化にその最盛を迎える。
同題は、モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥールも描いている。 (→写真2)
1755、ルーヴル。パステル使用。
<余談>アニメ『魔女の宅急便』(監督 宮崎駿)では、お婆さんの家にこの絵が掛っている。
ジャン=オノレ・フラゴナール(1732-1806)
ブーシェの1番弟子。18世紀フランスの最後を飾る画家。
《ぶらんこ》1767、ロンドン、ウォーレスコレクション (→写真3)
快活で健康的な生気。対角線を基本とした構図。
描かれているのは、森でぷらんこに興ずる若い女性と、それを下から見上げる貴族。
若い女は貴族の愛人。ブランコを後ろから綱で引くのは、女の夫。
乱堕な男女関係は当時の常識的なもので、夫も妻も、愛人を複数持つのは許されていた、または甲斐性であった。
女は片方のサンダルを貴族の方に投げ出して、それが今まさに空中にある。媚を売る表情。貴族の視線は女のドレスの中。
ジャン=バティスト=シメオン・シャルダン(1699-1779)
ロココ趣味の風俗画が流行する中、独自の写実主義を貫いた画家。
市民階級の質素な生活を描く。
《赤エイ》1726、ルーヴル
ゴシック的雰囲気。
《家庭教師》1738、オタワ国立絵画館
当時の服装の歴史資料としても有意。
《自画像》1775、ルーヴル
晩年は眼を痛め、パステル使用。
シャルダンは、また、絵具をチューブに入れる事を発明、ルフランに作らせた。絵具のルフラン社の始まり。
当時のチューブの素材は、豚の膀胱だった。
この発明により、画家は屋外での作業が可能となった。
フランス革命
18世紀末の政治的変革、1789年の人権宣言。
ルイ16世ブルボン王朝の財政悪化、貴族階級の経済的衰退、第3階級の台頭。
貴族の享楽的で奢侈な生活へ、市民の怒りの鬱積。
美術も、ロココ趣味は終わりを告げ、その反動が始まる。
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アントニオ・カナレット(1720-80)
ヴェネツィア景観画の第一人者。
オランダバロックのライスダール(1628/29-82)が始めた風景画の後を継いだ。
《サン・マルコ広場》1735-40、ワシントン、ナショナルギャラリー
遠近法を駆使した正確な景観描写。
《サン・ロッコ聖堂に同信会館を訪問するドーシェ》1735、ロンドン、ナショナルギャラリー
背景に絵のカンヴァスが多数立て掛けてある。絵画の市があった事が判る。
��イギリス
18世紀、急速な国力を付ける。大陸とは異なる独自文化が育つ。
外国から来て活躍したハンス・ホルバイン(1497/98-1543独ルネサンス),ヴァン・ダイク(1599-1641フランドルバロック)の仕事が英国美術の土壌に。
ウィリアム・ホガース(1697-1764)
いち早く構築された近代議会制国家の下、新しい市民生活が生まれ、そこから生まれた画家。
市民視線による庶民生活、風刺画、肖像画。
《グレアム家の子供たち》1742、ロンドン、ナショナルギャラリー
いっぱしの小さな紳士淑女達。ユーモア精神。
《ああ、いにしえのイギリスのローストビーフよ》1748-49、ロンドン、テートギャラリー
フランス人社会の身分格差の大きさを、肥満と痩せぎすの2人に象徴。フランスの衰退を皮肉った。
ジョシュア・レノルズ(1723-92)
ホガースとは対照的に、王族貴族の肖像を多く描いた。
《三美神に御酒を捧げるサラ・バンベリー》1765、シカゴ美術研究所
古代風衣装をまとった女優。歴史劇を借りた硬質な肖像(歴史的肖像画)。
《アンドリューズ夫妻の肖像》1748-50、ロンドンナ・ショナルギャラリー
大地主(ランドオーナー)の穀倉地帯を背景にした肖像画。豊かさの象徴。
《悲劇のミューズに扮したシドンズ夫人》1789、カリフォルニア、ヘンリ・E・ハンティントン図書館
サラ・シドンズ、当時大人気を博した女優。
トマス・ゲインズバラ(1727-88)
レノルズ同様、貴族達の肖像画を多く描いた。自然描写に卓越。
《朝の散歩》1785、ロンドンナ・ショナルギャラリー
《シドンズ夫人》1785、同上
レノルズの悲劇性に対し、優雅と気品。
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王制の継続、古い体質の社会。
フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス(1746-1828)
政治的危機に揺れ動く時代、強烈な個性を貫いた画家。
カルロス4世の宮廷画家。
《裸のマハ》1798-1805,《着衣のマハ》1801-03、マドリード、プラド美術館
謎の多い絵。
モデルはアルバ公爵夫人か、または宰相マヌエル・ゴドイの愛人ペピータ・トゥードーとする異説も。
2昨の制作時期に12年の開きがあるとの説もある。
《アルバ公爵夫人の肖像》1814、ニューヨーク、ヒスパニック・ソサエティ
喪服のアルバ公爵夫人。
指には2つの指輪、「アルバ」と「ゴヤ」の彫り込み。彼女が指す地面には「ゴヤひとり」と。
2人が愛人関係にあったか、ゴヤの妄想か、不明。
次週はゴヤの続きから。
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