最相葉月「母の最終講義」2024年1月ミシマ社刊
ここ10年くらい読んでいませんでしたが、私は最相葉月さんというノンフィクション
ライターの読者で、深い取材に基づくノンフィクションに感動を覚えたクチです。
10年前に「セラピスト」という本を読んで書いた読書日記が下記でした。↓
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1924490090&owner_id=5540901
その最相さんが、還暦を迎えられ、作家デビュー30周年のエッセイ集を編んだという
ことで本書を手に取りました。
ノンフィクション作品は、対象があって書かれるものですが、本書はエッセイなので、
ご自分のことも数多く語られています。
もう30年も、若年生認知症の母親を介護されていたことも初めて知りました。
本書の惹句を紹介します。
”あの介護の日々は、母から私への教育だった――。”
”『絶対音感』『星新一』など傑作ノンフィクションの書き手であり、新聞の
人生案内も人気な著者の、半生にじみ溢れる名エッセイ集。珠玉の47本。
最相葉月デビュー30周年記念企画”
最相さんは、母親の介護関連では以下のようにつぶやきます。
”約三十年、介護とそれに伴う諸問題で心身共に限界だった時期もあるが、不思議な
ことに最近は、母が身をもって私を鍛えてくれていると思えるようになった。”
”わが身を振り返ると、若年性認知症の母の介護が始まった二十代の頃、ヘルパーさん
から自分の親の介護はほかのヘルパーに頼んでいると聞いて救われた気がした。
そうか、人に頼っていいんだと安堵した。”
本書は、それ以外のエッセイもたくさん収録されています。
目次と小見出しの抜粋も紹介します。
第一章 「余命」という名の時間
・宗教を語る言葉が欲しい
・ワクチン集団接種を前にして
第二章 母の最終講義
・母の最終講義が始まった
・いつもすべてが新しい
第三章 相対音感
・相対音感 共に生きていくために
・あえて、見ない、知らない、やらない
第四章 さみしい一人旅
・枕をもって旅をする
・「森のくまさん」を歌った日
第五章 人生相談回答者
・認知症者の片思い
・ヤングケアラーを探せ
第六章 ありがとうさようなら
・本を捨てる
・コロナ禍とジャーナリスト
あとがきで、最相葉月さんは言います。
”還暦を迎えた。本を書く仕事を始めてから、ちょうど三十年が過ぎた。ノンフィク
ションを生業としてきたので個人的なことをあまり書いてこなかったが、今回、
久しぶりにエッセイ集として刊行できることになった。”
”両親の介護と別れまでの日々を軸とし、取材で出会った人々や旅のこと、読み返す
のも恥ずかしい失敗談などもこの際すべて収録している。”
”編集者も装丁者もちょうど30歳とうかがった。私がこの仕事を始めた年に生まれた
赤ちゃんが三十年後、私の三十年目の本をつくってくださることになるとは、あまり
にもできすぎた話で、大変うれしく思っている。”
人生は、不思議な縁で、縦糸、横糸が紡がれ、織りなされていますね。そんなことを
感じさせる、心温まるエッセイ本でした。
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