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2023年12月26日14:21

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読書日記N o.1584(からだの美。小川洋子が紡ぐとこうなる)

■小川洋子「からだの美」2023年3月文藝春秋刊

最近、ご無沙汰していますが、小川洋子さんが紡ぐ物語の世界に、耽溺した
時期があります。

例えば、2011年8月に、「人質の朗読会」を読んで、↓こんな読書日記を書いて
いました。

https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1764923562&owner_id=5540901

読み返してみますと、昔の読書日記の方がよく書けていたのではと、内心忸怩たる
ものを感じます。(汗)

今回、久しぶりに手に取ったのは、小説ではなく、エッセイで、帯に印刷された以下
の文言に、目が吸い寄せらました。

”魂は身体の細部にこそ宿る。隠された美を掬い取り、やわらかに照らし出す
 極上の随筆16篇”

小川洋子さんの言葉の魔術のような文体を知る身としては、こんな言葉に絡め取られて
しまうのです。

惹句を紹介しましょう。(出だしは、帯の文言です)

”魂は身体の細部にこそ宿る
隠された美を掬い取り、やわらかに照らし出す。極上の随筆16篇。”

”イチローの肩、羽生善治の震える中指、ゴリラの背中、高橋大輔の魅惑的な首、
ハダカデバネズミのたっぷりとした皮膚のたるみ、貴ノ花のふくらはぎ、赤ん坊の
握りこぶし――身体は秘密に満ちている。”

”「文藝春秋」大好評連載を書籍化。”

16篇のタイトルは以下のとおりです。( )は私が補足
・外野手の肩 (イチロー)
・ミュージカル俳優の声 (福井晶一)
・棋士の中指 (羽生善治)
・ゴリラの背中
・バレリーナの爪先 (マリー・タリオーニ)
・卓球選手の視線 (石川佳純)
・フィギュアスケーターの首 (高橋大輔)
・ハダカデバネズミの皮膚
・力士のふくらはぎ (初代貴ノ花)
・シロナガスクジラの骨
・文楽人形遣いの腕 (桐竹勘十郎)
・ボート選手の太もも
・ハードル選手の足の裏 (劉翔)
・レース編みをする人の指先
・カタツムリの殻
・赤ん坊の握りこぶし

小川洋子さんの文体の技を、少しだけ紹介します。
最初のイチローを著した「外野手の肩」文章のクライマックスを引用します。
ご堪能ください。

”大きな打球がライトに飛ぶ。ボールがフェンスに当たる。あらかじめ予測した通りの
位置でクッションボールをつかみ、振り返り、すぐさま投球フォームに入るイチロー
の動きに一瞬の無駄もない。”

”ランナーは三塁を蹴り、ホームを狙う。イチローの視線は、キャッチャーのミットを
捕らえている。両腕と肩が宙を突き刺す槍のように一直線になり、右腕が大きくしなり、
ボールが解き放たれる。”

”ホームを守ろうとする気迫を宿した一個のボールは、定められた法則に従うかのように、
味方のミットへ吸い込まれてゆく。”

”球場全体からどよめきがわき上がる。一人の外野手の肩を通し、人々は記憶に刻まれた
太古の肉体の美と再会する。”

私は、小川洋子さんの文体フェチなので、書き写しているだけで、なんだか
ゾクゾクしてしまいました。(笑)
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