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2017年09月22日10:08

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「首相の解散権」について考える 憲法上の学説、イギリスの事情から

 読売新聞によると、民進党の選挙公約の一つとして、「首相の解散権の制約」を挙げたという。民進党の掲げる憲法改正項目の一つとして盛り込む意向だという。

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 ここで「首相の解散権」について整理しておきたい。

 この法理は、日本国憲法第7条3項及び第69条に基づく。すなわち、天皇は、内閣の助言と承認によって衆議院の解散を行う(第7条)。一方で内閣は、衆議院で不信任案の決議、または信任案の否決がなされば場合、10日以内に衆議院の解散か、内閣総辞職をしなければいけない(第69条)。

 天皇の衆議院解散は、国事行為に当たるため、実質的な権限はない。また、厳密にいえば、解散権は内閣に帰属するものなのだけれど、首相は閣僚の任免権を持っているため、閣内不一致で解散できない場合でも、反対の閣僚を罷免すれば、可能となる。こういう事態は実際にあって、2005年のいわゆる郵政解散の折、当時の小泉首相が行った。
 以上のことから、衆議院の解散は首相が実質的な権限をもつと考えていい。

 加えて、「首相の解散権」は学説的に、首相(内閣)の裁量に委ねられているという説(裁量的解散)と、衆議院による不信任を受けた場合の手段に限定されるという説(対抗的解散)という二つの見解に分かれている。
 このあたりの詳しい説明は省くけれど、過去の解散は多くが首相の判断によって行われていることからして、実際の運用は前者の裁量的解散に基づくと考えられる。

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 首相が自らの都合で解散を行えるのだとすれば、与党が有利となり、野党は十分な選挙対策を練る時間が得られない。民進党が具体的に、どのように制約しようとしているのかは、記事からだけでは分からない。ただ、おそらくはイギリスの制度を参考にしようとしているのだと思われる。

 日本の議院内閣制は、イギリスのそれをモデルとしている。それゆえ、イギリスもまた、首相が解散権を自由に行使できる制度だった。ところが2011年にイギリスで「議会任期固定法」が成立し、首相の解散権に制約が設けられた。
 すなわち、首相が議会(下院)を解散しようとすれば、下院の3分の2以上の賛成を必要としなければいけなくなったのである。実際、2017年の下院選挙は、首相が下院に解散を諮って可決した上で行われている。

 イギリスでも党利党略によって、与党に有利な解散が行われることに批判があった。そこで上述のようなことになったのだけれど、日本も同様にすべきかどうかについては、いくつか留意すべき点がある。

 ひとつはイギリスの政党事情だ。イギリス議会は伝統的に、二大政党制によって運営されてきた。王政の頃からトーリーとホイッグという二つの党派が存在し、それが議会制に移行していくなかで、保守党と自由党となった。20世紀に入ると、自由党が議席を減らし、労働党が台頭する。それでも二大政党制は大きく揺らぐことはなかった。
 しかし近年は、多党化が進むなかで、第一党が下院の過半数を得られないという事態も生じつつある。そこで首相が時期を見計らって再び解散に打って出ることを繰り返せば、政治の混乱に結びつく。与党にとっても、連立政権だったとすれば、党それぞれの事情に配慮しなければいけない。

 もうひとつは、この「議会任期固定法」はあくまでも法律であって、廃止しようとすれば下院の過半数の賛成を得ればいい、という点である。確かに現状では首相の解散権には制約が伴っているけれども、それが政権にとって不都合となれば、廃止するのはそう難しいことではない。

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 これに対して、民進党が提案しているのは、憲法改正項目に解散権の制約を盛り込もうというものであって、実現すればイギリスよりも強い拘束力を伴うものになりそうだ。
 首相が党利党略や自らの指導力強化を目的に、解散を繰り返すようなことが続けば、確かにこれを制約する必要はあるだろう。しかし、近年の解散は2〜3年ごとに行われている。任期満了は4年だから、それを長いとみるか短いととるかは微妙なところだけれど、少なくとも2年未満という事例は、終戦時を除けば一例しかない。しかもその一例は、内閣不信任案の可決によるものだから、首相の責任ではない。ちなみに、任期満了に伴う解散も、戦後一例しかない。

 各国の制度を見回しても、議会の解散や手続きにはそれぞれ違いもある。民進党は、民主党時代からイギリスをモデルとした政治改革を掲げてきた。ただイギリス自体が、いま大きく動揺している。「首相の解散権」の是非は、まず少し我が国の政治的な慣例を考慮した上で諮るべきではないだろうか。

 「首相の解散権」について、憲法による制約にまで踏み込むべきなのか。学説の対立が起きないような具体性をもたせるべきなのか。それによって、実際の政治にどのような影響が生じるのか。まずは議論が必要だろう。いきなり公約に盛り込むのは、有権者が事情を熟知しない段階では拙速であると考える。
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