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2015年07月26日19:11

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【映画】  『幻の湖』 (橋本忍監督/1982年)

こう暑いと、外に出かける気がしない。今日は、自宅で先日購入した映画のDVDを観た。芥川也寸志の音楽について調べていたら、芥川が音楽監督をした面白そうな映画が見つかったので、DVDを購入したものだ。

  『幻の湖』 (橋本忍/原作・脚本・監督、1982東宝)

「東宝創立50周年記念映画」と銘打った、2時間44分の大作である。原作、脚本、監督は、脚本家として数々の名作を生み出した橋本忍、音楽監督はもちろん芥川也寸志。主役こそ当時新人だった南條玲子だが、脇を固めるのは、隆大介、長谷川初範、北大路欣也、星野知子、関根恵子、かたせ梨乃、大滝秀治、等々の豪華キャスト。これは期待出来る。

愛犬シロとともに琵琶湖畔を走る道子(南條玲子)。どこからか笛の音が聞こえるが、それは道子の思い出し。「でも、あの笛はまた聞くし、その時には会える。お前とあたしだけしか知らないあの人にね」とシロに語りかける道子。タイトル文字「幻の湖」が出ると、リストの「前奏曲」に乗せて、四季それぞれの美しい琵琶湖畔の風景をバックに、愛犬シロだけをお供に孤独なトレーニングを続ける道子の映像。素晴らしい映画を予感させる幕開けだが...


この映画についての評などを見ると、「ストーリー展開が不可解、意味不明」、「サスペンスなのか、時代劇なのか、SFなのか訳が分からん」、「そこらの駄作とはレベルが違う破壊的な駄作」、「Z級映画の横綱」などといった言葉が並び、実際、封切り後2週間程度で打ち切られたという。その後ビデオ化されることもなく、東宝としても「なかったこと」にしたい映画だったとか、橋本忍のそれまでの輝かしい業績もこの映画によって消し飛び、以後は仕事がなくなったとか、さんざんな評価だ。そのためか、最近ようやくDVD化されるまでは、まさに「幻」の映画だったようである。一体どんな映画なんだと観たくなる。


この映画のキーワードを挙げてみると、琵琶湖、笛の音、ジョギング、織田信長、お市の方、宇宙パルサー、...、と、なんだか訳が分からないので、ストーリーを書こう。

道子は雄琴のト○コ(今はこの言い方はしない)で、「お市」の源氏名で働いている。外回りの銀行員倉田(長谷川初範)とも、ジョギングシューズをプレゼントされたことがきっかけで親しい(ト○コの客ではない)。ある日、ト○コ嬢仲間のアメリカ人ローザ(デビ・カムダ)が、雄琴での仕事をやめてアメリカに帰るという。最後の思い出にと、道子はローザと琵琶湖岸を巡る。飛行機の爆音を聞き、「ファントムではなく、イーグルだ。イーグルはすでに実戦配備についている」と一人呟くローザ。意味不明...。

道子は、日課となっている愛犬シロとのジョギング中に、葛篭尾崎で笛を吹く不思議な男と出会う。この男に牽かれる道子。しかし、どこの誰かは分からない。

ある日、孤独な道子の心の支えだった愛犬シロが何者かに殺されているのが見つかった。悲しみにくれ、犯人を見つけるまで故郷へは帰らないという道子。目撃証言などから、歌手西条ユリの所属する事務所の慰安旅行の中にいた人物があやしいとなる。道子は休暇を取って西条ユリの所属する東京の事務所にまで乗り込むが、どうやら事務所の人間ではなく、招待された作曲家の日夏圭介が犯人らしいと突き止める。もしかしたら、葛篭尾崎の謎の笛を吹く人が日夏ではないかと勝手に思い込む道子。それを確かめたくて、東京の日夏の事務所を訪れるが、日夏の写真や自宅住所など、もちろんそんな個人情報は聞き出せない。

そんな中、偶然にも雄琴のト○コ嬢仲間だったローザと会う。ローザの正体は、米国の諜報員であった。アメリカに帰らず東京にいたのだ。ローザにとっては、日夏の住所や経歴などを調べるのはたやすい。日夏の写真も手に入れた。もちろん葛篭尾崎の人は全くの別人だ。道子はローザから聞いた目黒区青葉台の日夏圭介(光田昌弘)の自宅マンション前で待ち伏せる。日夏もジョギングが趣味のようだ。日夏が出てきて走り始めると、あとを付けて走る、走る、走る、走る、ひたすら走る。「倒れるまで走らせてやる」と追い続けるが、都会の空気に慣れていない道子は、駒沢オリンピック公園に入ったところで、スパートをかけた日夏に逃げ去られてしまった。

雄琴に帰ると、親しかった銀行員倉田の川崎への転勤が決まったことを知る。最後の思い出にと、倉田と琵琶湖東岸をドライブデート。道子は雄琴にいながら、琵琶湖東岸は初めてだった。沖の島を見て、「沖の島。あたしと同じ独りぼっちの寂しい島だと思っていたのに、裏側はこんなに大勢の人が!」と叫び、その時倉田に抱きとめられ、(場面としては明確には出てこないが)ここで倉田に求婚されて受諾する。

話はまた飛んで、道子は葛篭尾崎で、笛を吹いていた男、長尾(隆大介)に再び会う。長尾は笛の由来を話し始める。織田信長の妹で浅井長政と政略結婚させられたお市にまつわる話だ。

このあと、戦国時代に場面は変わり、「時代劇」が20分くらい続く。お市の侍女みつは、湖上で笛の音を聞き、その笛の主である長尾吉康(隆大介、二役)と出会う。二人はやがて結ばれるが、そこは戦国時代、思い通りにはいかない。これから祝言を挙げようかという時期に、織田家と浅井家の友好関係は断絶する。浅井一族は信長軍により滅ぼされ、長尾吉康とみつも離れ離れになったままどうにもならない。みつは信長への恨みを込めて、「琵琶湖を持ち上げて信長にたたきつけてやる!」と叫ぶ。これが信長の耳に入って怒りを買い、みつは殺されて葛篭尾崎に沈められた。湖上で笛を吹く吉康。

この笛はみつの魂を鎮めていたのだった。長尾はその笛を受け継いだ長尾家の子孫であった。長尾は、「僕の仕事は宇宙科学、宇宙パルサー。磁場の研究で、近くアメリカへ帰り大気圏外へ出る」という。(なんだ、この展開は) 道子の源氏名も「お市」。「自分の運命にしたがうしかないお市の方です!」と言い、長尾の話を聞いて涙を流す。

ローザに手紙を書く道子。「私には、幻の人と幻の白い犬がいて、それを追い続け、走り続けていたのでは...。私に本当にあったのは、琵琶湖という大きな湖だけだったのかも」 そして、宇宙パルサー研究者の長尾へのメッセージを託す。「どこかの星でみつさんと会って下さい。その遠い旅路がつつがないように」と。

さて、これでエンディングではない。話はさらに続く。結婚のためト○コ嬢を辞める直前、偶然にも日夏圭介が客として店に現れる。お市とみつの伝説を聞いた日夏は「琵琶湖に沈んだ女の恨み節を書きたい」などと、軽薄そうに笑いながら言うので、道子の復讐の念が再燃。用意していた(!)出刃包丁を持って、日夏に向かう。逃げる日夏、追う道子。琵琶湖岸を走る、走る、走る、ひたすら走る。東京マラソンに続き、今度は琵琶湖マラソンだ(?)。東京では日夏に負けたが、琵琶湖岸では道子に地の利がある。日夏も、道子が東京で追いかけてきた女であることに気付く。ついに両者力尽き、琵琶湖大橋で日夏も道子も足が止まる。日夏を追い越し、「勝ったわよ!」って、追い抜いてどうする?と思ったら、振り返り、日夏に包丁を突き刺す道子。「お前なんかに、琵琶湖へ沈んだ女の恨み節なんて!」

場面は急転し、まさにその時スペースシャトルが打ち上がる。このスペースシャトルに長尾が搭乗している。大気圏外に出ると長尾は船外に出て、琵琶湖の上空185キロの位置に笛を静止させる。琵琶湖の水が枯れて、誰もここにそんな水たまりがあったことも忘れてしまっても、太陽系が消滅する45億年先まで、笛は「幻の湖」の上にある...。

ストーリーを書いても、訳が分からないことには変わりないか。いや、世にいうほどの駄作ではなく、何度か観るうちにこの映画の奥深さが分かってくるのかもしれない(ような気がする??)。

琵琶湖岸観光案内としても価値がある(?)映画で、滋賀県といえば琵琶湖しか知らない(大多数の)人にとっても、その湖の周囲にはこんな所があるのかと楽しめるはずだ(たぶん)。

劇中でも何度かリストの「前奏曲」(芥川也寸志指揮東京シンフォニック管弦楽団)が流れる。今後この曲を聴くと、この映画が浮かびそうだ...。

このレビュー日記を見て、「幻の湖」を観たくなった方がいらしたら、DVDは入手容易なので、是非ともご覧になって感想を聞かせていただきたいものである。だまされたと思って観てみるのもよいかと。本当に「だまされた」と思うかもしれないが...。
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