「其処に直れーぃ!」
地を震わす程の怒号が辺りに響き渡り
先程まで囀ずっていた鳥達も鳴りを潜める。
声の主の軍配は大男の正面に向き微動だにせず。
取り巻きは冷静さを装い頭を低く構えている。
名刀が抜かれた、其の時、
「あいや、親方様、此の様な者等捨て置かれませ」
古参らしき男が落ち着き払って言う。
「ふん、其の方、命拾いをしたのう、
じじいには敵わん!はっはっはっ」
大将は素早く踵を返し、本陣に消えた。
*
「間違いは無かろう、奴は生きて居るわ」
身を潜めていた数名の忍共は
敵の大将、病に臥す、
とされた噂の真偽を確めに来ていた。
「影武者?」
「馬鹿な、貴様も見たであろう」
「如何にも。奴に相違あるまい」
「では、参るぞ」
忍共は、まんまと策に嵌まったか、
或いは、真の大将であったか、
其の実は、本陣の者のみぞ知らん。
*
再び、野太い声が高らかに
其れも複数、
謡が響き始めたのであった。
−完−
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