■身心快楽(39)
●６月８日(月) 続 (日付はきのうの日付にした)
夜中の１２時をまわっても、ときどき
ウグイスが鳴く。
ウグイスでない鳥も、夜更けに啼く。
しかし、名前がわからない、
もし、姿が見えても、やはり鳥の名はわからない。
ホーが短く、ケキョケキョだけがよく響く。
ナイチンゲールは「夜鶯」とも書くので、向こうでは
夜啼くウグイスをそう呼ぶのかと思ったら、
「小夜啼鳥」は、日本のウグイスとはちがう鳥だった。
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http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%A8%E3%83%8A%E3%82%AD%E3%83%89%E3%83%AA
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http://www.fusiginattoku.net/torinokoe.html
●「富士日記」昭和四十五年
七・八月、拾遺��
▼七月二十八日(火) 快晴
・・・・
午後二時ごろ、パンクタイヤを持って下る。
スタンドで見てもらう。太いねじ釘がささっていた。一週間位前から
ブレーキをふむと妙な音がしていたので、ついに見てもらう。
部品を取り替えねばならない。タイヤが直ってから部品を買いに行ってくれ、
全部直ったのは六時過ぎ。主人がきっと夕食を待っている。早く帰りたいと
胸の中やらお腹の中がごろごろする。
スタンドは今年はアルバイトの女の子三人と十六歳位の少年、整備のできる
若い衆がいる。ノブさんは中年になって肥り気味だ。
スタンドのおばさんは、風通しのいい日陰のベンチに私を坐らせ、自分も
隣りに座って話し込む。中央道が出来てからは途中のスタンドで給油して
くることが多く、おばさんやノブさんの顔を見るのは久しぶりだ。
おばさんは隣りに坐るなり「万博に行ったか」と一番はじめに訊くから
「行かない」と答えると「ここらでは三人に一人はいかない。わしは
その一人の方よ。今年は忙しくて、まだ行ってない」と不満そうに言う。
忙しかったわけは、去年おばさんのお母さんが八十歳(？)で死に、
少し経ったら、そのおばあさんのところに四十年居候していた、
まるきりの赤の他人で、どうして居候していたのか、おばあさんも
本人もまわりの人も、よく判らないような按配のおじいさんが死に、
―――これも八十歳位。クリスマスごろから脳溢血で倒れていたスタンドの
おじいさん(おじさんのおとうさん)が正月の二日にちっとも苦しまずに死に、
六月におばあさんの姉さんが五年もの間入院したり退院したりしていたが、
東京の病院で死んだ。四人も死んで忙しかった。
スタンドのおじいさんが倒れる前に、一ヶ月半ほどおばあさんが
新宿の病院に胃が悪くて入院した。いまでもおばあさんは「命の母」と、
のみ薬を四種類毎日のんでいる。
この辺はお坊さん一人五千円のお経料をやる。盛大な葬式なら一万円位。
戒名のいいのをつけてもらうには五万円位やる。もっとやる人もいる。
このごろはお互いに商売していて忙しいので、四十九日や新盆などでも
よばないで、配りものをしてすませる ―――と、こんな話をおばあさんはした。
●このあと、ガソリンスタンドのおばあさんの話は、まだまだ続く。
そして百合子さんは、それを聞き、その話を延々と書いている。
七月から八月にかけての「日記」には、たった一行の日記もある。
にもかかわらず、この日の「日記」は文庫本で四ページにもなる長い長い
日記である。
早く帰りたい・・、主人が夕食を待っている・・。胸の中も、腹の中も
ごろごろしながら、話を聞いて、そしてその夜、この長い日記を書いたのだろう。
●もう二時になった。
寝ることにする。
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