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2016年11月19日22:11

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読書日記Nо.959(生きているのはひまつぶし)

■深沢七郎「生きているのはひまつぶし」2010年10月光文社文庫

前回の読書日記に引き続いて、積読書の虫干しの一冊。
6年前に刊行された本だが、今春、書店の店頭で平積みされていて
手に取った。

表紙が横尾忠則のようで印象的だったのかもしれないし(横尾忠則
さんの作品ではありませんでしたが)、作者が、深沢七郎だったから
かもしれないし、書名に惹かれたからかもしれない。

「生きているのはひまつぶし」。

人生には価値があるという、一般に流通している価値観に真っ向に
異議を唱えているように、思えたりもするが、マイミクの皆さんは如何
でしょうか。

でも、まぁ、こんなつぶやきは、本を読んでいたら、いろいろ出会うもので、
例えば、私は、名コラムニスト・山本夏彦さんのコラムでも、出会った記憶
がある。

深沢七郎さんという作家は、中高年以上のマイミクさんなら、知っていると
思うが、若いマイミクさんは、ご存知だろうか。

略歴は以下。

1941年山梨県生まれ。職業を転々としながら、’56年中央公論新人賞の
「楢山節考」でデビュー。日本文学史上の事件とまで言われた。

'60年の短編「風流夢譚」が右翼による嶋中事件を起こし放浪を余儀なく
される。'65年に埼玉県にラブミー牧場を開き念願の農耕生活に入る。

「人間滅亡的人生案内」は当時の若者の心を捉え、「みちのくの人形たち」
で谷崎潤一郎賞を受賞。'87年に亡くなるまで庶民の眼差しと生き方を貫く。

なんといっても、深沢七郎は、「楢山節考」ですね。
姥捨ての民話を、人間存在の深遠の文学にまで昇華させた傑作です。

中央公論新人賞の専攻委員だった、三島由紀夫をして「怖い」と言わしめ
ました。

前置きが長くなりましたが、本書でした。惹句を紹介。

“「忘れるっていうことは、人間に大切なことですよ」「忘れることで頭の中は
ちょうどいいぐあいに片づけられるからね」「自然死(自殺ではなく)は人間に
とって一番ありがたいこと」。”

“四十歳を過ぎて小説『楢山節考』でデビュー。放浪の果ての農耕生活、
作家としてのオンリー・ワンの生き方を貫いた深沢七郎。未発表作品集
として刊行された話題の書が遂に文庫化。 ”

インテリではなく、庶民生活の土俗の底から、湧き上がるような地声は、
確かに、腹の底に、大太鼓のように響き渡る。

文庫本なので、解説がついていて、その解説で、女優の白石かずこは言う。

“こうして、生きて暮らしてる深沢さんと深沢さんを囲む風景はすでに飄々
として、一抹の悲哀と美しさがあり、小説というより小説で、物語というより
物語で、詩的であるというより詩なのだ。”

“無駄な部分は、コトバの中にも暮らしの中にもカットされている。むずかしい
コトバを使っていない文章は暮らしに似ている。”

“一見普通のようにみえるけど、怖ろしい真理に何気なく触れて、それを
なにげなく吐き出す深沢七郎の文章も人間も、ここで草をとり、種を植え、
お茶をいれ、ご飯をたく、すべての普通の中でかいまみる不思議と似ている。”

21世紀の高齢社会日本は、果たして、「楢山節考」の問題をまた、つきつけ
られているかもしれない。慧眼というより、人間存在の本質に馴れていた
のですね、深沢七郎は。
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