私は甥っ子を見ている。
「あ、何か悪いことしたな!?」
いたずらをした五歳の甥っこが、
私の冗談混じりの大声をきいて、
ひたすら漫画のような顔で笑っている。
父ちゃんは僕を見ている。
「こりゃ、悪か事ばしたろ!?」
甲高い父ちゃんの声に、
僕はまゆ毛と頬っぺたを引っつけて、
おまけのエクボ入りで父ちゃんに微笑みかける。
父との笑顔のやり取りは、幼少時の息子との想い出として本人から聞かされていた。
私は覚えてもいなかったが、突然、甥っ子の前で、新しい、私の過去の記憶が作り上げられ、すでに想い出になろうとしていた。私は次の言葉が見つからず、黙って笑っていた。
甥っ子は高校生になった。
いずれ話してあげようと思う。
父が私の笑顔を見て怒る気が失せたこと、
私が甥っ子の笑顔に幼少期の私を見たこと。
彼はいずれ、自分の息子の笑顔に驚かされる日が来るだろう。
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