時代を踏みにじる足音が
地の底に絶えず響いている
少年は崩れた日常の足もとを走る
目に浮かぶ悪戯な笑顔にむかって
帰る、と言う
親はこの戦争に呑まれた
故郷という場所はあるが
ぬくもりの記憶は土ぼこりに埋まり
燃えのこった過去が風に吹かれるばかり
少年は新しい記憶を求めてひたすらに走る
戦争さえ日常にとりこんで
ビルの上の照準が少年に合う
未来を差す指が引き金をひくのだ
その手でいつか赤ん坊を抱くのか
くわえ煙草の男は少年の行方をのぞいていた
男は空を仰ぐ
白みかけた空はいつもと変わらない
教会の鐘が鳴りはじめた
朝日が生きる者のために昇って来る
少年は光の方へまっすぐ消えていった
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