1/11(日)、庄司紗矢香のヴァイオリン･リサイタルを聴く為、macchaさんと一緒に、愛知県岡崎市迄行ってきました。
東名高速を使って、1時間ちょっとの行程。
渋滞を懸念して早く出ましたが、何事もなくすいすいと走り、開場1時間前に到着。軽い昼食を取る時間もありました。
会場は岡崎市シビックセンター、コンサートホール”コロネット”。初めて行ったホールです。
収容員数は約450の中規模のホール。木の優しい味わいがある感じのいいホールでした。
席は前から3列目、幅25席の中で19と20の番号でしたから、かなり斜め鈍角から見上げる事になるかと思っていたのですが、幅は広くなくてセンターのソリスト位置にすごく近い、ステージもほんの30�冂�の低さでしたから、見上げるという事はなく、同じ目線で鑑賞できるなと、とてもいい席で、わくわくしながら開演を待ちました。
庄司紗矢香は目にも鮮やかなピンクのワンピースのドレス、ピアノのイタマール･ゴランは、黒のラフなスーツで登場。
プログラムは、
F･シューベルト(1797-1828/オーストリア) ヴァイオリン･ソナティナ第3番ト短調op.137-3(D.408)
E･ブロッホ(1880-1959/スイス-米) ヴァイオリン･ソナタ第1番
<休憩>
A･ドルマン(1975- /イスラエル) ヴァイオリンとピアノの為のソナタ第2番
L･V･ベートーヴェン(1770-1827/独) ヴァイオリン･ソナタ第7番ハ短調op.30-2
シューベルトの作品は19歳の時の作品。抒情の歌心溢れる小ソナタ。
目と目を見合わせる事もなく、2人は音楽を始めます。この2人は本当に息が合っているのだなと、そのスタートの小さなモーションを見て感じました。
これ迄、庄司はゴランとのデュオ、室内楽を数え切れない程積み上げてきています。
出だしはピアノから。ゴランの旋律の歌わせ方に、この人は歌心のある人だなあと思いました。
シューベルトの歌を愛でるように、愛おしむように、2人は若いシューベルトの小さな世界を構成します。
一転して、2曲目は近現代の作曲家。
ブロッホはチェロとオーケストラの為の「ヘブライ狂詩曲『シェロモ』」が有名です。
私はロストロポーヴィチとバーンスタインでこのLPレコードを愛聴していました。
そのタイトルから判るように、ブロッホはユダヤ人です。”シェロモ”は古典的な言い方をすれば”ソロモン”。
当日のソナタは、ブロッホとしては、合衆国に渡ってからの新古典時代の作品のようですが、やはり濃厚にユダヤを感じます。悠久を感じさせる息の長いうねりが特徴です。
シューベルトの愛すべき小さな世界から、弾け出さずにはいない力、苦悩も憎しみも内含する大きさを感じさせる曲です。
第1楽章はアジタート。その表情指定の通り、激し、急き込む、急峻なパッセージの掛け合いの連続。
第2楽章は、モルト･クイエート。瞑想的な静けさに満ちて。
第3楽章はモデラート。特徴的なピアノの舞曲音型の上をヴァイオリンがユダヤの歌を奏でます。最後に第1楽章が戻って来て、更にピュウ･モッソし、激しく怒号のように終わります。
圧倒されました。後から思えば、この曲が当日の白眉でした。ブラボーを叫びたい気持になりました。
休憩の後は、庄司が委嘱したドルマンの新作。
この人もユダヤ人です。若い、今まだ33歳。
当日のプログラム構成を考えると、ユダヤ人の近現代2作品を、ドイツ人の古典名作が囲むといった風になっています。よく考えられた、実に興味深い構成です。
この新作は、2楽章ですが、切れ目なく続けて演奏されます。もう少し長い曲かと勝手に推測していたのですが、時間的には意外に短いものでした。
5度の音型が、繰り返しピアノによって、ゆっくりと孤独に落ちてきます。それは、ヴァイオリンに引き継がれ、メロディに昇華された後も、その中にこの5度の展開が何度も顕れます。
第2楽章に移っても5度の音程は繰り返されますが、第1楽章の静けさから、ここではヴァイオリンとピアノは互いの調性を無視し、騒々しい迄に主張し合います。急緩急と展開し、繰り返しを経、最後のブレストでピークを形作ります。
一陣の風のようにあっという間に吹き去ってしまい、今更ながらにもう一度聴きたいという欲求がふつふつと湧き起こってきます。
庄司の依嘱新作ですから、きっとその内に、CDに入ってくるだろうと信じます。
最後はべートーヴェン。「クロイツェル」と伴に有名な曲で、往きの車の中では、HDに収めたものを聴きながら来たのですが、正直言うと、前のユダヤ2曲であまりにも緊張し、違う世界に運ばれてしまい、後日の私の印象にはあまり残っていません。私の感受性の度量の小ささの所為です。頭のフレーズの何とも孤独な歌い合わせが脳裏に木霊します。
第4楽章のアレグロでは、私は構造迄は判りませんけれども、庄司のヴァイオリンの裏の肩当てユニットが、小さな音がして外れたようでした。落ちてしまうところ迄はいっていません。でも、庄司は反応も見せず最後のコーダの盛り上がり迄弾き切りました。
演奏が終わり一旦袖に隠れた後、鳴りやまぬ拍手に応えて舞台に現れた庄司の右手には、弓と一緒にそのユニットの1部がぶら下げられていました。後ろの方の席の人達には看取できなかった”小事件”かもしれません。勿論、アンコールの時は、またそれを付けて出てきましたが。
彼女のヴァイオリンは、日本音楽財団から貸与された、ストラディヴァリウスの”Joachim”です。”Joachim”に代わりはありませんもの。
当日のプログラムでは、弱音機を付ける部分がかなりありましたが、その”Joachim”の弱音の美しさには、恍惚とする思いでした。
ブロッホのアジタートの間で見られた、弱音機の付けられた低音弦でのグリッサンドには、背筋が震えました。
アンコールは5曲。
エルガー 『愛の挨拶』
クライスラー 『軍隊行進曲』
〃 『奇想曲』
チャイコフスキー 『感傷的なワルツ』
サコーヴィチ op.34-12
最後の和音のメロディー美しいピース、サコーヴィチとありましたが、これは何でしょう？
今年最初の生で”聴く”演奏、至福の2時間強でした。
またこの組み合わせで聴ける歓びを味わいたいものだと思いながら、夕暮れの東名高速を走らせました。
家に着く頃には、東の空に大きな月が、下半分を雲に隠して、恥ずかしそうな表情でした。
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